2026年12月施行 改正公益通報者保護法とは? なぜ問題は社長に届かないのか? 中小企業が見直したい内部通報体制

2025年6月に成立した「改正公益通報者保護法」は、2026年12月1日に施行されます。今回の改正では、公益通報者への保護が強化されるだけでなく、企業に対しても内部通報制度の実効性向上が求められる内容となっています。 内部通報制度は、大企業だけのための制度ではありません。むしろ経営者との距離が近い中小企業だからこそ、「本音が上がりにくい」「問題が見えにくい」という課題を抱えることもあります。本記事では、改正公益通報者保護法のポイントとともに、中小企業が施行までに見直しておきたい内部通報体制について解説します。 目次 閉じる 開く 1.なぜ問題は社長に届かないのか 2.公益通報者保護法とは 3.改正公益通報者保護法で何が変わるのか 4.中小企業が準備しておきたい内部通報体制 5.内部通報制度は企業を守る仕組み 6.まとめ 💡この記事のポイント  ☑改正公益通報者保護法は2026年12月1日に施行される。  ☑公益通報を理由とする解雇や懲戒処分への規制が強化される。  ☑一定のフリーランス等も保護対象となる。  ☑内部通報体制の整備は、300人超の事業者では義務、300人以下では努力義務。  ☑企業には、内部通報制度を「設置すること」ではなく「機能させること」が求められる。  ☑内部通報制度は不正を探すためではなく、問題を早く発見するための経営インフラである。 1.なぜ問題は社長に届かないのか  企業不祥事のニュースを見ると、「なぜもっと早く問題に気付けなかったのだろう」と感じることがあります。しかし実際には、問題に気付いていた人が誰もいなかったわけではありません。現場で感じた違和感が組織の中で共有されず、結果として企業の信用を大きく損なう事態へ発展してしまうケースもあります。こうした問題を早期に発見し、企業が自ら改善できるようにする仕組みが「内部通報制度」です。  企業活動の中では、不正会計や品質不正、ハラスメント、個人情報の管理ミスなど、さまざまな問題が起こり得ます。もちろん、そうした問題は起きないに越したことはありません。しかし現実には、企業規模にかかわらず何らかのトラブルや法令違反が発生する可能性があります。  経営の観点から見て重要なのは、問題がまだ小さいうちに、その存在に気付ける状態になっているかどうかです。問題に気付いている人がいるにもかかわらず、その情報が組織の中で止まり、経営層へ届かないまま時間だけが過ぎてしまうこともあります。  不祥事が発覚した後には、「なぜ誰も言わなかったのか」という声が上がります。しかし実際には、「言わなかった」のではなく、「言えなかった」というケースも少なくありません。現場にいる人にとって、問題を指摘することは決して簡単ではないからです。相手が上司や経営者であればなおさらです。「自分の思い違いだったらどうしよう」「余計な波風を立てたくない」と考えれば、気付いていても声を上げられなくなります。特に中小企業では、そうした情報が経営層まで届かないまま埋もれてしまうこともあります。だからこそ重要なのは、誰かの勇気や善意に期待することではなく、安心して声を上げられる仕組みを整えておくことです。  内部通報制度では、従業員などが法令違反や不適切な行為について相談・通報できる窓口を設け、問題の早期発見につなげる役割を担います。  法令違反に限らず、社内規程違反やハラスメントなど、企業が定めた範囲の相談・通報を受け付けることができます。そのうち、法律上の要件を満たすものが、公益通報者保護法による保護の対象となる「公益通報」です。 2.公益通報者保護法とは  一方、「公益通報者保護法」は、その通報を行った人を保護し、内部通報制度が適切に機能するためのルールを定めた法律です。内部通報制度が企業の中で運用する「仕組み」だとすれば、公益通報者保護法はその仕組みを支える「法律」と整理するとわかりやすいでしょう。  2004年に制定された公益通報者保護法は、制度運用や社会情勢の変化を踏まえて複数回改正されてきました。今回の改正では、通報者保護の強化に加え、企業に対して内部通報制度をより実効的に運用することが求められています。  実際にデータを見てみましょう。消費者庁の調査では、企業不正の発見経路として内部通報が重要な役割を果たしていることが示されています。  上記の表で不正発見の端緒として最も多いのは「従業員等からの内部通報」です。多くの問題は監査や検査だけで見つかるわけではなく、現場で働く人たちの気付きによって明らかになっていることがわかります。  また、政府広報では、内部通報制度を「企業内の不正を早期に発見・是正し、企業や従業員を守る制度」と説明しています。内部通報制度というと告発の仕組みという印象を持つ人もいます。しかし、その役割は不正を暴くことではありません。組織の中にあるリスクを早い段階で把握し、改善につなげることにあります。  公益通報者保護法は、通報者を守るための法律です。同時に、企業が問題に気付き、自ら改善する機会を失わないための仕組みを支えています。その意味では、コンプライアンス対応だけでなく、企業価値を守るための基盤づくりにも関係する法律といえるでしょう。  あらゆる問題の発生を完全に防ぐことは困難です。しかし、問題が小さいうちに気付ける会社をつくることはできます。現場で感じた違和感が経営に届くのか。それとも組織の中で消えてしまうのか。公益通報者保護法は、通報者を守る法律であるだけでなく、現場の声が経営に届く組織になっているかを企業に問いかけています。 3.改正公益通報者保護法で何が変わるのか  今回の改正の背景には、「制度を整備しただけでは十分ではない」という課題があります。改正公益通報者保護法では、公益通報者の保護を強化するとともに、企業に対して内部通報制度の実効性向上を求める内容が盛り込まれました。 改正公益通報者保護法の主な改正ポイント ① 通報者保護の強化  公益通報を理由とする解雇や懲戒処分への規制を強化し、刑事罰も導入。 ② 公益通報を妨げる行為への規制  公益通報の妨害や、通報者を特定する目的での探索行為を禁止。 ③ 保護対象者の範囲拡大  フリーランスや、業務委託関係終了後1年以内のフリーランスも保護対象に追加。 ④ 内部公益通報対応体制の実効性向上  企業に対し、内部通報制度を適切に運用するための体制整備を求める内容を強化。  内部通報窓口が設置されていても、問題の早期発見や是正につながらなかったケースが見られたため、制度の実効性向上を目的として見直しが行われました。問われるのは制度の有無ではありません。問題が起きたときにきちんと機能する仕組みになっているかどうかです。 (1)通報者保護の強化  今回の改正で特に注目されるのが、通報者保護の強化です。  これまでも公益通報を理由とした解雇や不利益な取扱いは禁止されていました。ただ、制度が存在するだけで通報への不安がなくなるわけではありません。  実際には、通報後の扱いへの不安や、誰に伝えればよいのかわからないことなどから、問題を認識していても声を上げにくい状況が生まれることがあります。  こうした不安を軽減するため、改正法では公益通報を理由とする解雇や懲戒処分に刑事罰が導入されました。さらに、公益通報後1年以内に行われた解雇や懲戒処分は、公益通報を理由として行われたものと推定されます。そのため、企業側は、人事上の判断が通報とは無関係だったことを説明できるよう、処分に至った経緯や判断根拠を適切に記録しておく必要があります。また、正当な理由なく公益通報を妨げる行為や、公益通報者を特定する目的で探索する行為も禁止されます。改正で重視されているのは、「通報した人を守ること」だけではありません。安心して通報できる環境そのものを整えることにも重点が置かれています。  公益通報を理由とする解雇や懲戒処分への刑事罰が導入されたことは、通報者保護の強化を象徴する改正といえるでしょう。公益通報者保護法が制定されて以来、通報者保護を実効的なものにするための措置が段階的に強化されてきましたが、今回の改正はその流れをさらに進めるものといえます。 (2)公益通報を妨げる行為への規制  今回の改正では、公益通報そのものを妨げる行為への規制も強化されました。企業や関係者が通報を思いとどまらせるよう働き掛けたり、公益通報者を特定することを目的に探索したりする行為は、内部通報制度の実効性を損なうおそれがあります。  そのため改正法では、正当な理由のない公益通報の妨害や、公益通報者を特定する目的での探索行為が禁止されました。安心して通報できる環境を整備する観点からも重要な改正といえるでしょう。 (3)事業者に求められる対応  一方で、企業側には、内部公益通報に適切に対応するための体制整備が求められます。常時使用する労働者が300人を超える事業者には、内部公益通報対応体制の整備などが法律上義務付けられています。なお、体制整備義務違反そのものに対する直接の刑事罰は設けられていませんが、助言や指導、勧告等の対象となる場合があります。300人以下の事業者については努力義務ですが、問題を早期に把握して是正につなげるため、企業規模に応じた体制を整えておくことが重要です。  通報を受け付けるだけで終わるのではなく、適切な調査を行い、問題が見つかった場合には改善につなげること。そして、再発防止策を講じ、その取り組みを継続すること。こうした一連の流れが機能して初めて、内部通報制度は意味を持ちます。  実際、制度があっても運用ルールが曖昧なために、通報後の対応が担当者任せになっている企業もあります。調査担当者や情報管理の方法、通報者保護のルールが整理されていなければ、制度への信頼は生まれません。 (4)保護対象者の範囲拡大  今回の改正では保護対象者の範囲も拡大されました。従来の労働者、退職者、役員などに加え、事業者と業務委託関係にあるフリーランスや、業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスも保護対象となります。働き方が多様化する中で、企業には従来よりも幅広い視点で内部通報体制を整備する必要があります。 4.中小企業が準備しておきたい内部通報体制  大企業では法務部門やコンプライアンス担当者が内部通報制度を運用することもありますが、中小企業ではそのような余裕はなく、総務担当者や経営者自身が窓口を兼ねるケースも少なくありません。  改正公益通報者保護法への対応を考える際、中小企業では「どのような制度をつくるか」よりも、「どのように運用するか」が重要になります。  そのため、高度な制度を整備することよりも、「相談しやすい環境をつくること」「相談を受けた後の対応手順を決めておくこと」がより重要になります。限られた人員でも継続的に運用できる仕組みにしておくことが大切です。  内部通報がないことと、問題が存在しないことは必ずしも同じではありません。制度が整備されていても利用方法が十分に伝わっていなければ、相談や通報にはつながりにくいからです。消費者庁も、制度を実効的に機能させるためには、通報窓口の周知や教育、通報者保護の体制整備が重要だとしています。特に中小企業においては、制度は作ることよりも、利用されることが重要です。 (1)「相談しても無駄」と思われない仕組みをつくる  内部通報制度の出発点となるのは、「相談してみよう」と思える安心感です。  どれほど立派な制度を整備しても、「どうせ何も変わらない」と思われてしまえば利用されません。制度への信頼は、通報件数の多さではなく、「相談すればきちんと対応してもらえる」という期待によって支えられているからです。  特に中小企業では、顔が見える関係だからこそ、「誰が相談したのかわかってしまうのではないか」という不安が生まれることがあります。そのため、窓口の存在を周知するだけでなく、秘密保持の方針や運用方法についても丁寧に説明しておくことが欠かせません。企業規模や体制によっては、外部窓口の活用も選択肢になります。制度の存在を知らせるだけでなく、「相談してもよい」と感じてもらえる環境づくりまで含めて考えることが重要です。 (2)制度を「あるだけ」で終わらせない  内部通報制度は、通報を受け付ける窓口を設置しただけで機能するものではありません。  通報を受けた担当者が迷わず行動できるよう、受付担当者や調査責任者、情報共有の方法などをあらかじめ整理しておく必要があります。  また、通報者の保護をどのように行うのかについても、関係者の間で共通認識を持っておかなければなりません。  実際、制度が形骸化している企業では、窓口は存在していても、その後の動きが決まっていないケースが見られます。対応方法が曖昧なままでは、通報者の信頼も得られません。だからこそ、問題が発生してから対応方法を考えるのではなく、平時のうちに役割や手順を確認しておくことが重要になります。一見地味な取り組みに見えるかもしれませんが、制度の実効性はこうした準備によって支えられています。 (3)現場で止まる情報をなくす  制度を動かすのは、最終的には人です。  従業員が最初から通報窓口へ向かうとは限りません。多くの場合、最初に相談を受けるのは直属の上司だからです。そのため、管理職の対応次第で問題が適切に共有されることもあれば、そこで情報が止まってしまうこともあります。  消費者庁も、制度を機能させるためには労働者や役員への教育が重要だとしています。制度の趣旨を理解していなければ、せっかく寄せられた情報も適切な対応につながりません。  窓口担当者だけでなく管理職も制度を理解することが重要です。現場で最初に相談を受ける人が制度の意義を理解していれば、組織の中にある情報は経営層へ届きやすくなります。  内部通報制度は、通報窓口を設置すれば完成するものではありません。従業員が安心して相談できる環境があり、通報後の対応ルールが整備され、管理職を含む組織全体が制度の趣旨を理解していて初めて機能します。  だからこそ、改正公益通報者保護法への対応は単なる法令対応で終わらせないことで、自社が「現場の声を拾える組織」になっているかを見直す機会にもなります。 5.内部通報制度は企業を守る仕組み  改正公益通報者保護法の施行を控え、内部通報制度に注目が集まっています。しかし、内部通報制度というと、「会社を告発するための制度」というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、本来の目的は不正を探し出すことではありません。問題を早い段階で把握し、企業が自ら改善できるようにすることにあります。政府広報でも、内部通報制度は企業内の不正を早期に発見・是正し、企業や従業員を守るための制度として紹介されています。  企業経営では、予期しないトラブルや判断ミスを完全に避けることはできません。重要なのは、問題が表面化する前に兆候を把握し、適切に対応できる状態をつくることです。  現場で感じた違和感や業務上の課題が早い段階で共有されれば、業務手順の見直しやルールの改善につなげることができます。消費者庁も、内部公益通報制度には組織の自浄作用を高める役割があり、社会や取引先からの信頼確保にも資するとしています。内部通報制度はコンプライアンス上の備えであるだけでなく、組織を健全に運営するための仕組みでもあります。言い換えれば、内部通報制度は会社の「早期警報装置」であると同時に、「組織をより良くするための対話の仕組み」でもあります。  今回の法改正は、そうした組織づくりを改めて考えるきっかけにもなります。現場の声が経営に届いているか、社員が安心して意見を言える環境になっているか。そんな視点から自社を見つめ直してみてはいかがでしょうか。 6.まとめ  2026年12月に施行される改正公益通報者保護法は、通報者保護の強化だけでなく、内部通報制度の実効性向上を重視した改正です。  今回の改正では、通報窓口を設置するだけでなく、現場で上がった声を適切に受け止め、問題の改善につなげられる体制を整えることが求められています。  内部通報制度は、現場の気付きや違和感を共有し、問題が小さいうちに改善へつなげるための仕組みです。  改正法の施行を機に、現場で上がった声が経営に届く仕組みになっているかという視点から、自社の体制を見直してみてはいかがでしょうか。 参考文献 ・消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(2026年12月1日施行版) ・政府広報オンライン「公益通報者保護法が改正。『内部通報制度』で不正をストップ!」 ・消費者庁「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」 ・消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

2026.11.04

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