名義株式を放置することのリスクとは
株主名簿には名前が記載されていても実際に出資を行った真の株主が別にいる「名義株式」は、そのまま放置し続けていると、権利の所在が曖昧になり、税金の請求や決議権の主張に関するトラブルに発展する可能性があります。自社に名義株式がないかを確認し、名義株式があった場合には速やかに解消のために動くことが大切です。本記事では、名義株式が発生する理由、放置したときのリスク、名義株式を解消するためのポイントを解説します。 💡この記事のポイント ・名義株式は、法人税申告書別表2の「株主等の株式数等の明細」において記載が漏れていることがあり、原始定款や、当時を知る人間に発生経緯を聞くなど記録を遡って調べなければならない場合がある。 ・名義株式を解消する際は、名義書換えに関する合意だけでなく、真の株主が誰なのかを明記した確認書の作成が重要。 目次 閉じる開く 1.名義株式とは何か 2.名義株式が発生する主な理由 (1) 会社設立時に名前だけを借りて発起人にしたケース (2) 相続税対策で発行済み株式や新規発行株式に名前を借りたケース 3.放置することで起こりうる問題とは (1) 経営者の相続人が相続税の追徴課税を受ける (2) 名義貸主本人や相続人から権利を主張される (3) 事業承継が円滑に進まない 4.名義株式を解消するためのポイント (1) 名義株式の真の株主を立証できるようにしておく (2) 名義株主や会社に株式を買い取ってもらうときは (3) 名義株式でなく贈与した株式である場合には 5.おわりに 1.名義株式とは何か  株式は、会社に出資をした者に発行され、本来、出資した者と株式を所有する者が同一であるはずです。しかしながら、株主名簿に株主として名前が記載されていても、実際に出資を行ったのは別の者で、株主に名義だけ貸しているということがあります。  こうした株式を名義株式といい、経営者や役員が出資を行い、知り合いや親族から名義を借りているというケースが大半です。  名義株式の有無を確認するには、以下の方法があります。 名義株式の有無を確認する主な方法 ①創業者に設立時に名義株式が生じていないか直接確認する ②設立時の出資金の振込が名義人から行われているかどうか、当時の出入金記録などを確認する ③名義を貸した側と借りた側の双方で1通ずつ保管する名義貸与承諾書がないか探す(作成していない場合もあり) ④配当金が名義人に支払われているかどうか確認する ⑤株主総会の出席者が名義人本人かどうかを確認する  出資者と株主の名前が異なる状態をそのままにしておくと、権利の所在が曖昧になり、税金の請求や決議権の主張に関するトラブルに発展する可能性があります。したがって、自社に名義株式がないかを確認し、名義株式があれば速やかに解消のために動くことが大切です。  なお、株式の名義人やその相続人と連絡がつかない場合、その所在不明株主に対する通知または催告が5年以上継続し到達せず、かつ、所在不明株主が剰余金の配当を5年間以上継続して受領していなければ、「所在不明株主の株式売却制度」を利用して、名義人の承諾なしに、取締役会議での決議と裁判所の許可を得ることにより株式を売却することが可能です。のちに株式の名義人と連絡がついた場合は、売却から10年を経過するまでに申し出があれば売却代金を名義人に支払います。10年を経過していたら申し出は無効です。 2.名義株式が発生する主な理由  出資者と株主の名前が異なる状態になる主な理由には、以下のようなケースがあります。  ・会社設立時に名前だけを借りて発起人にした  ・相続税対策で発行済み株式や新規発行株式に名前を借りた (1) 会社設立時に名前だけを借りて発起人にしたケース  平成2年の商法改正以降、株主1人で会社を設立することができるようになりましたが、商法改正前は株式会社の設立には7人の発起人による株式の取得と出資金払込証明書が必要でした。その当時は、下のイメージのように、創業者以外の発起人に、名前だけ貸して資金を拠出していない株主がいるというケースが多々ありました。  背景としては、創業者のきょうだいや、友人、縁戚などを相手に出資のお願いをしづらかったり、お願いしたものの断られたりした結果、名義だけ借りたということがあります。会社の設立にどうしても必要だからと後先考えずに相手を選んだ、相手も深く考えずに名義貸しを承諾したというケースも多く、本人同士が忘れている場合もあります。法人税申告書別表2の「株主等の株式数等の明細」において、意図的か本当に忘れているのか、名義株式については記載がされていないこともあります。  会社設立時の名義株式については、原始定款を確認することで発起人である株主が確認可能であるため、株主一人ひとりの出資状況を確認することで判明する場合があります。  平成2年の商法改正以前の会社設立時の発起人となると、相続が発生していることも珍しくありません。もし名義株式の存在を相続人が把握せず複数の相続人による共有状態となっていれば、全員の所在を把握する必要があります。 (2) 相続税対策で発行済み株式や新規発行株式に名前を借りたケース  経営者が持つ非上場株式は、経営者が亡くなれば相続財産となり、相続税が課されます。この相続税の負担を減らそうと、かつては相続税対策として、経営者が自分の持っている非上場株式等の名義を多くの人に書き換えたり、増資に当たって自分自身が拠出したにもかかわらず、増資者の名義を家族にしたりするケースがよくありました。名義人本人が名義を貸している自覚があるかどうかによって対処方法が異なります。 3.放置することで起こりうる問題とは (1) 経営者の相続人が相続税の追徴課税を受ける  名義株式は、出資した者の財産であり、出資した経営者に仮に相続が発生したとすると、経営者の相続財産として、相続税の課税対象となります。ところが、名義株式としての管理を怠っていると、相続人が名義株式であることを認識できず、相続財産に名義株式を含めないで相続税申告を行ってしまうことになります。その後の税務調査で名義株式の計上漏れが判明する場合には、追徴課税が発生することになります。  また、名義株式であるという認識があってもこれを含めず申告を行うと、隠蔽したと判断されて重加算税の対象となる可能性もあります。 (2) 名義貸主本人や相続人から権利を主張される  経営者があくまで名義を借りただけで真の株主は自分だという認識があっても、相手も同じ認識とは限りません。株主が亡くなっていて相続人に株主が渡っていると、名義を貸した当時の事情を知る人がおらず、名義株式ではない、と主張してくるケースがあります。もし名義株主やその相続人が議決権を行使して経営者と意見が対立することになれば、経営の安定性が揺らぐ要因となることもあります。  また、名義株式の所有権を主張した名義株主やその相続人が裁判を起こすとなれば、会社は多大な時間や労力を費やすことになるでしょう。 (3) 事業承継が円滑に進まない  事業承継時には、株式の整理・集約にあたって、株主構成の把握や株式の評価額の算出が欠かせません。しかしながら、名義株式があることが発覚すれば、名義株式の解消や評価額算出に時間がかかり、承継時期に影響が出ることになるでしょう。 4.名義株式を解消するためのポイント  株主名簿や法人税申告書別表2の記載内容が実質と異なっている場合は、できるだけ早く訂正を行っておきたいものです。ただ、名義株式かどうかがわかる資料が残されていればよいのですが、何の証拠書類もないことも多く見受けられます。この場合、株主名簿と法人税申告書別表2 の記載内容変更の根拠を明確にすることで、名義株主や課税当局に対抗できるようにしておく必要があります。  名義株式の主な解消策としては、①名義株主と合意し名義を書き換える、もしくは②名義株式を名義株主や会社に買い取ってもらう、という2つです。 (1) 名義株式の真の株主を立証できるようにしておく  名義株主と合意し名義を書き換える場合、下にあるような「名義株式についての確認書」を作成し、名義株主からも署名押印をいただいて、真の株主が誰であるか、そして今回の名義の変更が真の株主への名義書換えであることが立証できる万全な準備をしておくとよいでしょう。 ■名義株式についての確認書(一例) ○○株式会社 御中  株主として記載のある甲名義の貴社株式は、乙の依頼により名義を貸したことによるものです。  甲は会社設立に当たり、金銭の拠出は一切しておりません。名義を貸したに過ぎず、甲乙間に贈与、譲渡があった事実もなく、真の株主は乙であることを確認する旨、本日確認書を申し入れます。  上記に基づき、甲名義の株式を乙名義へ書換えを行うよう貴社へ請求します。  なお、この名義の書換えにあたって甲乙間での金銭等の授受は行いません。 ○年○月○日  (甲)住所              署名            ㊞  (乙)住所              署名            ㊞  (出典:『事業承継ニュース』vol.45、TKC出版、一部改変)  このとき、名義書換えへの合意の旨だけでなく、真の株主が誰であるかも書面に記載することが大切です。  一般的に、株式に限らず財産の名義の変更があった場合、無償で行われたものであれば、原則として贈与として取り扱われ、贈与税が課税されます。すなわち、双方が株式の所有権を主張している場合などで、真の株主をはっきりさせないまま株式の名義を書き換えると、贈与として贈与税が経営者に課税される可能性があるのです。たとえ互いに合意形成が完了していても、書面に記載し、第三者へ真の株主が誰であるのかが立証できるようにしておきましょう。名義株主から真の株主に名義書換えが行われる場合は贈与とされず、贈与税の課税もありません。  なお、名義株主本人が既に死亡している場合には、その相続人全員の署名押印が必要になることもあります。相続人は名義株主本人から何も聞かされていないこともあるため、名義株式であるという事実を客観的に証明できるよう、過去の経緯を知っている人の経緯文書の作成や、株主としての権利行使状況など、事実を立証できるようにしておきましょう。 (2) 名義株主や会社に株式を買い取ってもらうときは  名義株式を名義株主や会社に買い取ってもらう場合、名義は他者である株式ですが、経営者自身の所有する株式を譲渡する要領で手続きを進めることになります。譲渡価格が実際の評価額より下回る場合には、その差額分が名義株主への贈与であるとされ贈与税を課税される場合がありますので、考慮して価格を設定しましょう。 (3) 名義株式でなく贈与した株式である場合には  前述したように、かつては相続税対策として、自分が持っている非上場株式等の名義を多くの人に書き換える方や、増資に当たって自分自身が拠出したにもかかわらず、増資者の名義を家族にする方などがいました。このような書換えは、贈与が行われたとみなされ贈与税が課せられることがありますが、株主名簿や法人税申告書別表2の「株主等の株式数等の明細」にはその名義人を記載しておき、相続が発生した際に、これらは7年以上前の贈与であるとして、課税当局に贈与税の時効を主張するケースもありました。そうした主張をするには、契約書や議事録などの法形式が整えられていることに加え、譲渡代金やその後の配当が実際に授受されていることなどの確認、立証も必要です。主張する時期に贈与があったことを立証できなければ、7年以上経っていたとしても時効成立となりません。  また、そもそも贈与したとしている相手がその株式の存在を認知しておらず、管理もしていない場合、いわゆる名義預金と同じく贈与が成り立っていないため時効が存在しないことになります。相続税はあくまでも実質所有者に課税するものであるとして、名義人が管理および権利行使をしていない場合は、形だけの配当や申告があったとしても、国税不服審判所および裁判所において、被相続人の財産であるとして相続税の課税対象となっています。  なお、非上場株式等について譲渡や民法上の贈与が成立していることを証明するためには、次の点についての確認が必要です。 ■非上場株式等の移転成立のための要件等 ①贈与契約書、譲渡契約書 ②譲渡代金の移動 ③譲渡所得税申告書、贈与税申告書の提出 ④配当の収受および継続した所得税の申告 ⑤株主総会等における議決権行使の事実 ⑥譲渡制限会社※における譲渡承認の事実(定款や登記事項証明書、株主総会議事録、取締役会議事録等で確認) ⑦株主名簿の整備 ⑧法人税申告書別表2「株主等の株式数等の明細」の正しい記載 ⑨財産債務調書へ対象株式を継続的に記載  ※株式について、その譲渡(贈与を含む)に会社の承認を必要とする、制限された株式を発行する会社をいいます。譲渡制限会社では譲渡の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならないこととされています。  会社の定款で株式譲渡についての承認機関を確認することができます。 【定款の記載例】 (株式の譲渡制限)第〇〇条 当会社の発行する株式の譲渡による取得については、株主総会(取締役会)の承認を受けなければならない。 5.おわりに  本記事では、名義株式が発生する理由、放置したときのリスク、名義株式を解消するためのポイントを説明しました。  名義株主が既に死亡している場合には「名義株式であることの確認書」にその相続人全員の署名押印が必要になるなど、対処が遅れるほど事態が複雑化して対応が長期化することが考えられます。できれば次世代への事業承継の前に、名義株式の有無の確認や、名義株式であることを立証できる書類を探し出しておきたいものです。もし事業承継を終えていても、長年雇っている従業員などが力になってくれる場合があります。  また、名義株式をこれから発生させないことも重要です。定期的に株主名簿を見直し、記載内容に誤りや不備がないかを確認しましょう。株主の住所や苗字等の変更が適切に反映できているかもチェックが必要です。もし、株式譲渡が行われたり、株主に相続が発生したりした場合は、名義書換えや権利行使者の指定を迅速に進め、常に最新な情報を反映した株主名簿であることに努めましょう。何より、株主管理のルールを決めて、それに則り勝手な名義書換えや譲渡を行えなくする仕組みづくりが欠かせません。  名義株式を解消し、かつ、新しい名義株式の発生を防止することは、企業の安定経営を維持する上で非常に重要です。自社は大丈夫と楽観視せず、把握できていない名義株式がないか、慎重に確認しましょう。 参考文献 ・『事業承継ニュース』vol.43(TKC出版) 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。
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