価格競争力と地域密着を強みに成長軌道を描く

山梨県北杜市を拠点にガソリンスタンドの運営等を手がける木次商事は、価格競争力と活気のある接客などを武器に顧客基盤を拡大してきた。後継者不在の店舗を活発に承継する一方、国際情勢を踏まえた戦略の見直し、若手人材の採用・育成にも注力。地域を支える企業として進化を続けている。 (写真)木次功一氏 目次 閉じる開く 燃料の仕入れルートを変更 後継者不在の店舗を承継 社長と従業員の"往復書簡" 地元の若手人材を積極採用 株式会社木次商事 代表取締役社長 木次功一氏 きつぎ・こういち●1977年山梨県生まれ。98年に木次商事に入社。2013年に代表取締役社長に就任し、現在に至る。「明るく元気に、どうせやるなら楽しく」を自分自身と会社のモットーとしている。 「明るく、楽しく、元気よく。これが当社の大切にしている姿勢であり、モットーです」 木次功一社長は快活な口調でこう話す。応接室には木次商事の社訓と企業理念が飾られており、「『明るく元気に どうせやるなら楽しく』頑張りましょう」など、従業員のモチベーションを高める言葉が並んでいる。 同社は1950年の創業以来、山梨県の北西部に位置する北杜市を拠点に事業を展開してきた。祖業は二輪車の販売店だったが、現在はガソリンスタンドの運営、自動車の修理・整備、法人向けの燃料輸送の三つを事業の柱に据えている。特にガソリンスタンド事業では、石油元売り大手であるENEOSの店舗に加え、自社ブランド「KITSUGI」を展開。現在、両ブランド合わせて10店舗を山梨県と長野県に構えている。 「自社ブランドは2023年に立ち上げた事業で、サービスを給油と洗車に絞っている点が特徴です。適正品質の燃料を独自のルートで仕入れていること、自社のタンクローリーで燃料を輸送していること、サービスを絞り店舗の運営コストを抑えていることから、お客さまに燃料を手ごろな価格で販売できています」 そう木次社長が語るように、同社では燃料を地域最安値で販売することを追求している。この背景には、木次社長の入社直後の経験と「地域の人々の暮らしを支えたい」という思いがあった。 (左)自社所有のタンクローリーで燃料を運ぶことで輸送コストを削減、(右)自社ブランド「KITSUGI」のガソリンスタンドは低価格での燃料販売が特長 1.燃料の仕入れルートを変更 木次社長が東京都内のガソリンスタンドを経て、木次商事に入社したのは1998年のこと。祖父、父親と受け継がれてきた経営のバトンをしっかりと受け取るべく、木次社長は入社直後から「地域に愛される店」づくりに尽力した。 「修業先で学んだのは、元気よく接客することの大切さです。『またこのお店に来たい』とお客さまに思ってもらうべく、私を含め従業員一人一人が明るく、元気いっぱいの接客を心がけました。しかし、当時セルフサービスのガソリンスタンドが台頭してきたことで、燃料の販売価格で他のお店と差が生じ、次第に集客が伸び悩むようになりました」 他店との違いを肌で感じていた木次社長は、停滞する状況を打開するべく、ある決断を下す。燃料の仕入れルートにメスを入れたのである。燃料は通常、石油の元売り業者から卸売業者を経て、ガソリンスタンドに供給される。木次社長は卸売業者を長年取引関係にあった会社から、大手商社のグループ企業に切り替え、燃料の仕入れ価格引き下げを図ったのだ。 「当時社長を務めていた父に相談したところ、私の考えを後押ししてくれました」 とはいえ、長年懇意にしていた業者との取引を中止することは決して容易ではない。お互いの関係に亀裂が生じるばかりか、前払金や買掛金、支払手形といった債務の処理など、財務面での課題にも直面する。しかし、燃料を顧客に安く提供したいという思いから、木次社長は仕入れルートの切り替えを推進。取引金融機関の協力を得ながら、旧取引先に対する債務の残高をゼロに近づけていった。 同時に、新しい業者との交渉にも着手。半年におよぶ協議の末、合意に至った。その間に債務残高をゼロにしたことで、新たな仕入れルートを確立。燃料を安価で販売できるようになったことで、客足が目に見えて増加したという。 2.後継者不在の店舗を承継 手ごろな価格での燃料販売や確かな車両整備技術、活気のある接客態度を武器に顧客の心をつかみ、客数を伸ばしてきた同社。近年、力を注いでいるのが山梨県、長野県を中心とする新規出店である。 2010年、中央自動車道長坂インターチェンジ近くに、2店舗目となる長坂インターSS(サービスステーション)を開設したことを皮切りに、13年には八ヶ岳のふもとに八ヶ岳大泉SSをオープン。いずれも、後継者が不在だったことから、同社がM&Aで取得した。 車での移動が主流の山梨・長野両県民にとって、ガソリンスタンドの廃業は生活の利便性低下に直結する。「地域とともに生きる」をミッションに掲げるなど、常に地域への貢献を念頭に置いているからこそ、後継者不足に悩むガソリンスタンドを積極的に承継してきたのである。 その後も着実に店舗数を増やし、現在、ENEOSと自社ブランドでそれぞれ5店舗ずつ展開。26年内に新たに2店舗オープンする予定だという。 「近年はもっぱらKITSUGIの店舗拡大に注力していましたが、今後はENEOSの店舗でも、できることはやっていきたいと考えています」 木次社長がこう語る背景には、混迷の一途をたどる中東情勢の影響がある。米国・イスラエルとイランの軍事的緊張の高まりにより、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を巡る情勢が不安定化し、世界的に原油の供給不安や価格変動が生じる状況となった。 「昨今の情勢を受け、自社調達による価格競争力という強みを持つ一方で、調達の安定性という面での課題が浮き彫りとなりました。そのため、安定的な供給網を持つENEOS店舗にも目を向けて、KITSUGIとは違ったアプローチで、地域の方を支える店舗づくりをしていく方針です。ENEOSの店舗では自動車の点検や整備なども実施しているので、こうしたサービスの品質を磨き、付加価値を高めていきます」と、木次社長は続ける。 3.社長と従業員の"往復書簡" もう一つ、同社がいま注力しているのが従業員教育である。会社の規模拡大にともない、木次社長と直接顔を合わせる機会の少ない従業員が増え始めた。そんななか、企業理念や情報の共有、業務品質の向上を目指して、昨年に新たな研修プログラムを導入した。 この研修を提案し、推進してきた小野菜帆CR推進部長は研修の趣旨をこう話す。 「社長の思いや考えを社長自身の言葉で伝える機会を設けるべく、昨年から取り組み始めたのが『社長動画研修』です。社長が今考えていること、会社の方向性などを毎月動画にして配信しています。さらに、礼儀作法や接客スキルの習得、危険物の取り扱いや災害時の行動などについて部門単位でトレーニングする『一般研修』も始めました」 研修後はレポートの作成を義務づけており、研修の感想や社長への質問などを専用のレポート用紙に記入して提出。これらを木次社長が一つ一つ目を通し、コメントを返している。いわば社長との"往復書簡"だ。「受講者の負担を軽くするために、感想や質問の記入欄をあらかじめレポート用紙に設けてあります」(小野CR推進部長)と、日常業務と両立できるよう工夫が施されている。 「レポートを通して従業員の考えや人柄に触れるのが何より楽しいんです。先日も『なぜ私を採用したのですか』といった質問が来たので、『やる気に満ちあふれている姿が印象的だったので採用しました』とコメントを返しました」と木次社長は顔をほころばせる。 4.地元の若手人材を積極採用 人材採用は小野CR推進部長と、同部を担当する小野一道取締役が中心となって行っている。同社では地元の人材を積極的に採用しており、昨年から高校生の採用にも取り組んでいる。 「山梨、長野県内の学校訪問はもちろん、高校生向けの就職相談会などの参加を通じて、高校生への認知拡大を図っています。こうした活動の甲斐があってか、昨年、今年と2年連続で高校生を採用しています」(小野一道取締役) 地域に密着し、地域住民とのかかわりを重視する木次商事。会社の規模が拡大するなかでも、こうした取り組みを通して企業理念の浸透を図り、一枚岩の組織をつくりあげている。 「これからも人を大切にしながら、地域に必要とされ続ける会社でありたいと考えています」 こう語る木次社長は晴れやかな表情をしていた。 コンサルタントの眼 税理士 鈴木博之 監査担当(巡回監査士) 池崎陽子 鈴木博之税理士事務所 山梨県北杜市長坂町長坂上条2533-24 長坂ステーションビル441 https://machinozeirishisan.tkcnf.com 木次社長はとにかく"エネルギッシュ"な人です。相手が誰であろうと会話が盛り上がる。そんな明るい人柄の持ち主です。私たちも2017年に税務顧問に就いて以来、巡回監査などでお会いするたびに、元気とパワーをもらっています。 とにかく溌剌(はつらつ)とした印象が先立つ木次社長ですが、数字については細やかに目を配られています。木次商事さんでは『FX4クラウド』で経理業務を行っており、社長がご自分のパソコンで業績をこまめに確認し、自社の実態把握と今後の方針の立案に役立てておられます。 木次社長のお話にもあったように、木次商事さんはガソリンスタンドを複数店舗運営しているため、店ごとの損益をしっかりと管理されています。また、三つの営業部を設けていることから、営業部単位の損益も緻密に把握されています。 「減価償却」の重要性を理解している点も、木次社長の強みです。店舗を増やす分、建物や設備などの固定資産が増えます。固定資産が増えれば、毎年の減価償却費も増加します。木次社長は、減価償却費が年間どの程度発生するのかを把握した上で、新店舗展開や設備投資、借り入れ返済などの予定を検討されています。 社内の動きとしては、小野一道取締役、小野菜帆CR推進部長を中心に、人材採用や従業員教育の充実に注力されています。これらの基盤づくりを社外の業者に頼るのではなく、自社で一貫して行っている点も木次商事さんの強みといえるでしょう。 地域に欠かせない木次商事さんの経営を伴走支援することに、私たちも大きなやりがいを感じています。 木次功一社長を中央に、左へ小野菜帆CR推進部長、小野一道取締役。右へ鈴木博之税理士、池崎陽子監査担当(巡回監査士)

2026.08.10

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