売掛金を確実に回収しよう! 与信管理の基本と実務
近年、原材料価格やエネルギー価格の高騰、人手不足など、中小企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。そのような中、取引先の経営悪化により入金が遅延したり、倒産によって売掛金が回収できなくなったりすることで、資金繰りに影響を及ぼすリスクがあります。 経営において重要なのは、売上を上げることだけではなく、その代金を確実に回収することです。そのためには、取引先の信用状況を把握し、売掛金の回収リスクを管理する「与信管理」は、安定した経営基盤を維持するうえで欠かせない取り組みといえるでしょう。 本稿では、取引開始前後の与信管理のポイントや、経営悪化・倒産時の対応、貸倒損失の取扱いについて解説します。 💡この記事のポイント  ☑取引開始時だけでなく、得意先の与信状況を継続的に確認する  ☑得意先の経営悪化が判明した場合は、新たな回収リスクを増やさないことが肝心  ☑貸倒損失の計上は税理士に相談しながら慎重に行う 目次 閉じる 開く 1.なぜ与信管理が重要なのか (1) 「回収なくして売上なし」 (2) 取引先倒産による連鎖倒産のリスク (3) 中小企業ほど一社依存の危険性が高い (4) 貸倒れリスクを抑える「与信管理」 2.取引開始前の与信管理のポイント (1) 会社の基本情報や事業実態を確認する (2) 登記情報や公開情報を確認する (3) 担当者や取引先の対応を確認する (4) 支払条件や契約内容を確認する (5) 与信限度額を設定する 3.取引開始後の与信管理のポイント――取引先の変化を見逃さない (1) 兆候①:入金の遅延が増えた (2) 兆候②:支払条件の変更依頼があった、取引量が減少した (3) 兆候③:担当者が交代した、従業員の退職が相次いでいる (4) 兆候④:事業所や店舗が移転した、事業活動等に変化があった (5) 定期的に売掛金残高を確認しよう 4.取引先の経営悪化や倒産が判明したら取るべき対応 (1) 未回収の売掛金などを速やかに確認する (2) 新たな掛売りを停止する (3) 相殺できる債権・債務がないか確認する (4) 回収や今後の対応に備えて資料を保存する (5) 法的手続きへの対応を確認する (6) 貸倒損失の可能性を確認する 5.貸倒損失として処理できるケース (1) 貸倒損失として認められるための要件 (2) 貸倒損失の判断には証拠書類が重要 (3) 安易な債権放棄は避け、専門家に相談する 1.なぜ与信管理が重要なのか (1)「回収なくして売上なし」  企業が商品や製品を販売して売掛金が発生したとき、会計上は売上として計上されます。しかし、「回収なくして売上なし」という言葉があるように、その売掛金をきちんと回収しなければ会社のお金は増えません。つまり、実質的には「売上」といえないのです。  また、売掛金回収が遅れたり、貸倒れになってしまうと、次の仕入れや人件費の支払いなどに充てられず、資金繰りの悪化を招く要因となります。だからこそ、売掛金の適切な管理が重要なのです。 (2)取引先倒産による連鎖倒産のリスク  取引先の経営悪化や倒産によって売掛金が回収できなくなると、自社の資金繰りにも大きな影響が及びます。場合によっては、自社の経営が悪化し、連鎖的に経営危機に陥るおそれもあります。  そのため、取引先の信用状況を把握するとともに、貸倒れリスクに備えることが重要です。 (3)中小企業ほど一社依存の危険性が高い  中小企業では、特定の得意先からの売上が、会社全体の売上の大部分を占めていることがあります。  そのため、主要得意先の業績悪化や倒産などといった事態が発生すると、売上の減少だけでなく、多額の売掛金が回収できなくなるリスクも生じます。そうした場合には、損失額が大きくなり、自社の資金繰りに大きな影響を及ぼす可能性があります。  また、特定の得意先への依存度が高いほど、その得意先からの価格交渉や支払条件の変更要請を受け入れざるを得なくなり、経営の自由度が低下することもあります。  そのため、売上や売掛金が特定の得意先に集中していないかを定期的に確認するとともに、得意先ごとの売掛金残高や得意先の信用状況にも目を配ることが重要です。 (4)貸倒れリスクを抑える「与信管理」  得意先によって信用力や経営状況は異なるため、同じ条件で掛取引を行うことはリスクにつながります。そこで重要になるのが「与信管理」です。  与信管理とは、「その得意先はどれくらい信用できるか」を見極めた上で、掛売りによる回収リスクを適切に管理することをいいます。企業間取引では掛取引が一般的ですが、将来の代金回収が保証されているわけではありません。そのため、得意先ごとに、その信用度合いに応じた与信限度額を設定し、売掛金残高がその範囲内に収まっているかを継続的に確認することが重要です。  また、与信管理は取引開始時だけでなく、取引開始後も継続して行う必要があります。得意先の経営状況や支払状況の変化を把握しながら適切に管理することで、貸倒れによる損失リスクの低減につながります。 2.取引開始前の与信管理のポイント (1)会社の基本情報や事業実態を確認する  新規取引を始める際は、まず相手先の基本情報を確認しましょう。所在地や代表者、設立年数、事業内容、資本金などを把握するとともに、実際に事業活動が行われているかを確認することが大切です。  可能であれば、経営者自身が取引先を訪問し、会社や事務所の様子を確認するとよいでしょう。担当者や責任者との面談を通じて、公開情報だけでは分からない企業の実情を把握できる場合があります。 (2)登記情報や公開情報を確認する  相手先から得た情報だけで判断せず、登記情報や公開情報を活用して内容を確認することも重要です。例えば、所在地や代表者、事業目的などの登記内容を確認し、説明された内容との間に不自然な相違がないかをチェックします。また、所在地や代表者が短期間で頻繁に変更されていないかも確認しておきたいポイントです。  さらに、法人番号公表サイトや企業ホームページ、必要に応じて信用調査会社の情報を活用することで、相手先に関する客観的な情報を収集できます。 (3)担当者や相手先の対応を確認する  取引開始にあたっては、相手先の担当者が取引窓口として適切な立場にあることや、契約や取引条件について決定権を持っている担当者なのか――などを確認しておきましょう。  また、契約書の締結を嫌がる、説明があいまいである、取引の基本ルールを軽視する――といった姿勢がみられる場合には注意が必要です。こうした対応は、将来のトラブルにつながる可能性もあります。  自社の営業担当者だけに任せるのではなく、経営者自身も相手先の担当者や責任者と面談し、説明内容に不自然な点がないか、取引に対して誠実な対応をしているかなどを確認しておくことが大切です。 (4)支払条件や契約内容を確認する  取引開始前には、契約書を取り交わし、取引内容や支払条件を明確にしておきましょう。特に、締日、支払日、支払方法については双方で認識の相違が生じないよう書面で確認しておくことが重要です。  新規取引先については、最初から高額な掛取引を行うのではなく、少額取引や現金決済から開始する方法も有効です。取引実績を積み重ねながら取引額を拡大することで、貸倒れリスクの低減につながります。 (5)与信限度額を設定する  得意先によって経営状況や支払能力は異なります。そのため、すべての得意先に同じ条件で掛売りを行うのではなく、得意先ごとに与信限度額を設定することが重要です。  与信限度額とは、その得意先に対して認める売掛金残高の上限額をいいます。  一般的には、以下を目安として算定します。  与信限度額=その得意先からの1か月平均売上高 × 回収サイト(※)  ※回収サイトとは、売上発生から代金回収までの期間をいい、「月末締め翌月末払い」であれば約1か月、「月末締め翌々月末払い」であれば約2か月となります。  売掛金残高が与信限度額を超えないよう継続的に確認することで、特定の得意先への過度な依存や貸倒れによる損失リスクを抑えることができます。  こうした準備が、適切な与信管理の第一歩となります。 3.取引開始後の与信管理のポイント――得意先の変化を見逃さない  取引開始時に確認した得意先の経営状況や支払能力が、将来にわたって変わらないとは限りません。そのため、与信管理は取引開始前の確認だけで終わるものではなく、取引開始後も継続して行うことが重要です。  特に、入金状況や取引条件、担当者や事業所の変化などは、得意先の経営状況の変化を示すサインとなる場合があります。そのため、次のような兆候が見られないか、日頃から注意しておきましょう。 (1)兆候①:入金の遅延が増えた  取引開始後の与信管理において、入金の遅延は注意すべき兆候の1つです。これまで期日どおりに支払っていた得意先からの入金が遅れたり、督促しなければ入金されなくなったりした場合には、その理由や入金予定日を確認する必要があります。  特に、支払期日を過ぎても連絡がない、入金予定日を約束したにもかかわらず支払いが行われないといった状況は、資金繰りの悪化を示している可能性があります。一時的な事務手続きのミスによるケースもありますが、同様の遅延が繰り返される場合には注意が必要です。  入金遅延が繰り返される場合には、得意先の経営状況や資金繰りに何らかの変化が生じている可能性があります。そのため、遅延が発生した場合には放置せず、すぐに状況を確認することが大切です。 (2)兆候②:支払条件の変更依頼があった、取引量が減少した  得意先から「支払期日を延ばしてほしい」「分割払いに変更してほしい」などの申し出があった場合は、その理由を確認しましょう。このような要請は、必ずしも経営悪化を意味するものではありませんが、経営状況や資金繰りに変化が生じている可能性があります。  また、これまで順調だった得意先からの発注量が急に減少したり、継続していた取引が縮小したりする場合も注意が必要です。受注状況の悪化や事業規模の縮小など、経営環境の変化が背景にあることも考えられます。  支払条件の変更や取引量の減少は、得意先の経営状況の変化を示すサインとなる場合が多くあります。売掛金残高や回収状況の推移を確認しながら、継続的に状況を把握することが大切です。 (3)兆候③:担当者が交代した、従業員の退職が相次いでいる  得意先の経営状況の変化は、担当者や従業員の様子に表れることがあります。担当者の変更や従業員の退職が相次ぐ場合には、その背景にも目を向ける必要があります。  こうした人事面の動きは、世代交代や組織再編、DX推進による業務効率化などによる場合もあります。一方で、経営状況の変化が背景にある可能性もあるため、その理由や状況を確認することが大切です。  もちろん、担当者の交代や従業員数の変化だけで経営状況を判断することはできません。しかし、入金の遅延や支払条件の変更など、他の兆候とあわせて見られる場合には注意が必要です。得意先を訪問する機会があれば、担当者の対応や表情、職場の様子にも目を配り、以前と比べて気になる変化がないか確認しておくとよいでしょう。 (4)兆候④:事業所や店舗が移転した、事業活動等に変化があった  得意先の経営状況の変化は、本社や営業所、店舗などに表れることがあります。  例えば、本社や事務所の移転、営業所の統廃合、店舗の閉鎖などは、事業の見直しや経営合理化の一環として行われる場合があります。一方で、業績の悪化や事業の縮小が背景となっている場合もあり、その理由や状況を確認しておくことが大切です。  また、得意先を訪問した際に、在庫や設備の状況が大きく変化している、来客や従業員の出入りが以前より少ないといった変化が見受けられる場合もあります。こうした変化が、入金の遅延や取引条件の変更など他の兆候と重なっている場合には、より注意が必要でしょう。  さらに、過度な値引き販売や在庫処分、商品やサービスの品質低下、納期遅れ、クレームの増加などの事業活動の変化を示すサインとなることがあります。加えて、メールや電話への対応が以前より遅くなるなど、日常のやり取りにも目を配りたいところです。  得意先の変化は、決算書や支払状況だけでなく、事業活動のさまざまな場面に表れます。小さな変化を見逃さず、取引先の状況を継続的に把握することが重要です。 (5)定期的に売掛金残高を確認しよう  得意先の経営状況の変化は、入金の遅延や担当者の交代、事業活動の変化などとして表れることがあります。しかし、それらの兆候だけで判断するのではなく、自社の売掛金管理資料によって状況を確認することが重要です。  少なくとも毎月1回は、得意先ごとの売掛金残高を確認し、回収予定どおりに入金されているかを点検しましょう。特に、回収が遅れている売掛金については、その理由を確認するとともに、今後の入金予定を把握しておくことが重要です。  また、「売掛金年齢調べ」(売掛金を発生日や経過期間ごとに区分し、回収状況を一覧で確認する資料/エイジングレポート)を活用することで、回収が遅れている売掛金を早期に把握することができます。 4.得意先の経営悪化や倒産が判明したら取るべき対応  上記のような兆候が見られた場合には、まず状況を確認することが重要です。そして、得意先の経営悪化や倒産が判明した場合には、被害の拡大を防ぐために速やかな対応が求められます。ここでは、その際の対応のポイントを確認します。 (1)未回収の売掛金などを速やかに確認する  得意先の経営悪化や倒産の情報を入手した場合は、まず未回収の売掛金や電子記録債権、貸付金などがないか、正確に把握することが重要です。  売掛金台帳や請求書控え、契約書などを確認し、未回収となっている金額やその内容を整理しましょう。迅速かつ正確な現状把握が、その後の対応の出発点となります。 (2)新たな掛売りを停止する  未払いが発生している得意先に対しては、状況が明らかになるまで新たな掛取引を控えることが基本です。やむを得ず取引を継続する場合には、現金決済や代金引換などへの変更などを検討します。まずは新たな回収リスクを増やさないことが重要です。 (3)相殺できる債権・債務がないか確認する  得意先に対する売掛金だけでなく、買掛金など自社から支払うべき金額がある場合には、それらを相殺できる可能性があります。  未回収となる金額を抑えられる場合もあるため、契約内容や債権・債務の状況を確認しましょう。 (4)回収や今後の対応に備えて資料を保存する  売掛金の回収や今後の対応に備え、契約書、注文書、納品書、請求書、入金記録、督促履歴などの関係資料を整理して保管しておくことが重要です。  また、得意先とのやり取りを記録したメールや文書なども重要な資料となります。これらの書類は、回収交渉だけでなく、将来貸倒損失の処理を検討する際にも役立つため、適切に保存しておきましょう。 (5)法的手続きへの対応を確認する  得意先が破産や民事再生などの法的手続きに入った場合は、破産管財人や再生管財人などから送付される通知書の内容を確認し、必要に応じて債権届出を行いましょう。  届出期限を過ぎると不利益を受ける場合もあるため注意が必要です。対応に迷う場合には、顧問税理士などの専門家へ相談しましょう。 (6)貸倒損失の可能性を確認する  回収の見込みが乏しい場合には、将来的に貸倒損失として処理できるかどうかを確認しておくことが重要です。  ただし、貸倒損失が税務上認められるためには一定の要件を満たす必要があります。安易な判断は避け、関係資料や証拠書類を保存したうえで、顧問税理士等に相談しましょう。 5.貸倒損失として処理できるケース (1)貸倒損失として認められるための要件  取引先の経営悪化や倒産により売掛金等が回収不能となった場合でも、直ちに貸倒損失として処理できるわけではありません。  税務上、貸倒損失が認められるためには一定の要件を満たす必要があります。貸倒損失は、「回収できなかったから認められる」のではなく、「回収の努力を尽くしたものの回収不能であったこと」を客観的に示せるかが重要です。そのため、日頃から売掛金管理を徹底し、督促の履歴や関係書類を保存しておきましょう。  また、回収の可能性が残っているにもかかわらず安易に債権を放棄すると、税務上の問題が生じる場合があります。  貸倒損失は、一般的に次の3つに区分されます。 ①法的整理等により切り捨てられた債権(法律上の貸倒れ)  会社更生法や民事再生法、破産法などの法的手続により債権の一部または全部が切り捨てられた場合、その切り捨てられた金額について貸倒損失として損金算入が認められます。  また、債権者集会の協議決定や金融機関などによる合理的な再建計画に基づき債権が放棄された場合も、一定の要件のもとで損金算入が認められることがあります。 ②全額回収不能が明らかな場合(事実上の貸倒れ)  債務者の資産状況や支払能力などからみて、債権の全額が回収できないことが客観的に明らかになった場合には、貸倒損失として処理することができます。ただし、担保や保証が付されている場合には、それらの回収手続きを行った後でなければ貸倒れとして認められません。また、「回収が難しい」というだけでは足りず、「回収できないことが明らか」であることが求められる点に注意が必要です。 ③一定期間取引停止後も回収できない場合(形式上の貸倒れ)  継続的な取引を行っていた得意先について、取引停止後や最後の弁済後、1年以上経過してもなお弁済がない場合には、備忘価額(通常1円)を残して貸倒損失として処理することができます。ただし、この取扱いは、継続的な取引関係があることや、取引停止後一定期間が経過していることなどの要件を満たす場合に認められます。 (2)貸倒損失の判断には証拠書類が重要  貸倒損失の計上にあたっては、回収不能であることを客観的に示せる証拠書類を保存しておく必要があります。例えば、次のような書類はその根拠として重要な資料となります。  ○契約書  ○請求書・納品書  ○売掛金台帳  ○督促状  ○内容証明郵便の控え  ○破産手続開始通知書  ○債権届出関係書類  税務調査において貸倒損失の根拠を説明できるよう、日頃から関係資料を整理・保存しておくことが大切です。 (3)安易な債権放棄は避け、専門家に相談する  回収が困難であるからといって安易に債権放棄を行うと、貸倒損失ではなく寄附金と判断され、損金算入が制限される場合があります。  貸倒損失の判定は個別の事情によって判断が異なり、税務上の取扱いが難しいケースも少なくありません。回収不能の判断や損金算入の可否に迷う場合には、顧問税理士などの専門家に相談しながら慎重に対応しましょう。 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。
2026.09.03