データ連携で経営が変わる 事業者のDXが業務効率と申告の正確性を高める
近年、バックオフィスのデジタル化が叫ばれ、さまざまな業務システムが隆盛するなか、同時に、その連動性についての課題も浮上してきている。本特集では、TKCシステムと他社システムのデータ連携の事例を通して、その必要性と具体的成果を見ていく。 菅沼哲矢参事官 目次 閉じる開く 事業者と税務当局の両者にメリット デジタルインボイスが起点 システム間連携の重要性 今がデジタル化の好機 国税庁 長官官房 菅沼哲矢参事官 すがぬま・てつや●1995年国税庁入庁。国税局や財務省主税局、公正取引委員会などでの勤務を経験。国税局では課税部長、総務部長を歴歴。現在は、国税庁長官官房参事官兼デジタル化・業務改革室長として税務行政のデジタル化をけん引している。 国税庁の掲げる“税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)”のなかで2023年に追加された「事業者のデジタル化促進」は、税務処理も含めて一貫して効率的にデジタル処理できる環境を整備することで、事務処理の正確性向上と業務効率化を実現するための施策である。いま、国税庁は企業のDXについてどういう全体像を描いているのか。菅沼哲矢参事官に聞いた。 ──国税庁が事業者のデジタル化を推進する背景は? 菅沼 まず、税務行政を取り巻く環境が大きく変化していることが挙げられます。法人税や所得税の申告者数は増加し続けており、それに加えて経済社会のデジタル化・グローバル化・働き方の多様化が進んでいます。 例えば、副業やフリーランス、暗号資産など、従来にはなかった取引形態や所得の形が増えています。このため、税務当局としても対応すべき範囲が質・量ともに拡大しています。 一方で、国税庁の定員や予算は大きくは増えていません。さらに2023年の税務調査の実施割合(実地調査率)は、法人で1.7%(2003年の約半分)、個人では0.7%(同約3分の2)程度まで低下しています。こうした状況のなか、適正・公平な課税を維持するため、デジタルの力を活用して効率化・高度化を図る必要があるというのが基本的な考え方です。 1.事業者と税務当局の両者にメリット ──国税庁が掲げるデジタル戦略の全体像は? 菅沼 2023年6月に取りまとめた「税務行政のデジタルトランスフォーメーション~税務行政の将来像2023~」では、以下の三つを柱としています。 納税者の利便性向上 課税・徴収の効率化・高度化 事業者のデジタル化促進 ①は、スマートフォンなどの身近なツールで申告や手続きを簡単に完結できるようにすること。②は、AI(人工知能)やデータ分析を活用して課税・徴収を効率化すること。そして③が「デジタル化により事業者の取引から経理、税務申告・納付までの一連の業務をシームレスにすること」です。③は一見すると税務の範囲を超えているように見えますが、実は非常に関係が深いテーマなのです。 ──なぜ税務当局が事業者のデジタル化を支援するのですか。 菅沼 「申告の正確性」と「業務効率」を同時に高めるためです。事業者のバックオフィス業務がデジタル化されれば、帳簿や申告の精度が自ずと向上します。例えば、紙ベースの業務では「同じデータを何度も打ち込む(二重入力)」「入力ミスが発生する」「作業時間がかかる」という問題があります。 これをデータ連携により一気通貫で処理すれば、人手の削減、ミスの減少、業務工数の減少、ペーパーレス化といった効果が得られます。つまり、事業者のデジタル化は、事業者側にも国税庁側にもメリットがある「ウィンウィンの政策」と位置づけることができます。 2.デジタルインボイスが起点 ──具体的にはどのようなデジタル化を想定していますか。 菅沼 理想像は、取引の発生から申告、納付までがすべてデジタルでつながる「データtoデータ」の世界です。 流れを整理すると図表1の通りです。要するに、「取引の発生」にはじまり、請求は「デジタルインボイスの利用」、記帳は、「会計ソフトに自動連携」し、決済も「自動入金消込」へとつなげ、「決算・申告データへと連携」、そして「e-Tax」(法人の場合は「ALL e-Tax」〈主要な別表や財務諸表の添付書類など、すべてを電子提出すること〉)による申告、キャッシュレス納付へとつなげていくのです。 この一連の流れが実践できれば、「最初の入力だけで最後まで処理できる」いわゆるデジタルシームレスの状態が出来上がります。結果として、人手を介さないため正確性が担保され、業務負荷も大幅に軽減されます。浮いた事務量を別の業務に振り向けていただくこともできるでしょう。ただ、実際にデジタルシームレスを実現するには、まずはデジタルインボイスの導入が起点となるかもしれません。 ──なぜ、デジタルインボイスの導入が必要なのでしょう。 菅沼 デジタルインボイスは、請求の場面で活用されるものであり、売り手と買い手を直接データでつなぐ仕組みです。Peppol(ペポル)ネットワークを介することで、請求書データがそのまま相手のシステムに連携されます。さらに、後工程でもこうした請求書のデータを利用することができます。 そうすることで会計システムの仕訳・支払いデータの自動作成が可能となり、発行した企業は請求情報と紐づいた入金データを取得することで入金消込までできるようになります。これにより、手入力が不要となり、即時処理、正確性向上というメリットが享受できます。 ──普及にあたってのハードルは何でしょうか。 菅沼 まず相手方がデジタルインボイスに未対応だった場合どうするのか。また、システムの操作性の問題、あるいは、組織内の運用変更への抵抗などが挙げられます。特に重要なのは「取引先の理解」です。導入には買い手側への周知、つまり「合意形成」が必要です。 ──デジタルインボイス導入には難しい部分もありそうですね。 菅沼 きっかけとしては、クラウド会計ソフトの導入から始めてみてはいかがでしょうか。クラウド会計ソフトを導入すると、記帳がデジタル化されていきます。請求から申告までをデータでつなぐハブ的な役割を期待できますし、リモートワークでも経理業務ができますから、働き方改革にもなる。さらに言えば、導入した際に、「せっかくデータ化されているのだから、それを前工程にも後工程にも広げていこう」というモチベーションにもなります。 3.システム間連携の重要性 ──システム間の連携の重要性についてどのように考えていますか。 菅沼 今後は様々な意味で「つながること」が前提の時代です。例えば、従来は各ソフトが独立して動作していましたが、現在は会計、給与、勤怠、POSレジ、銀行などをつなぐ「連携ニーズ」が増大しています。データ連携が進めば、日次の処理が自動化され、手入力がほぼ不要となり、結果として変化の速い現代にとっては必須といわれる「リアルタイム経営」が実現するなど生産性の向上にも寄与すると考えます。 ──データ連携による事業者にとってのメリットは? 菅沼 まとめると、効率化・正確性・コスト削減の3点です。具体的には、人件費削減、ミス防止、ペーパーレス化、業務スピード向上、経営判断の迅速化。そして、一度導入すれば、継続的に効果が出るのも特徴です。 4.今がデジタル化の好機 ──デジタル化コストに対する支援はありますか。 菅沼 補助金や税制優遇が用意されています。たとえば、デジタル化・AI導入補助金は、ご承知の通り業務効率化やDX等に向けたITツールの導入を支援する補助金で、もちろんインボイス対応にも活用可能で、補助額は最大450万円、補助率は2分の1から5分の4。小規模事業者は最大5分の4が補助されます。 また、2025年度税制改正において、デジタルインボイスによる請求データ等を帳簿に自動連携する仕組みが電子帳簿保存法上に位置付けられました。その電子取引データに関する隠ぺい・仮装行為については、重加算税の10%加重の適用対象から除外されるとともに、青色申告特別控除65万円の適用が可能になります。 さらに、2026年度税制改正においても、青色申告特別控除額のさらなる上乗せ(75万円)が措置されています。特に個人事業者にとっては、こうしたインセンティブ措置がデジタルインボイス導入の契機になると考えます。 ──今後の展望は? 菅沼 将来的に、デジタル化が不可避である中、導入によってメリットが享受できることを踏まえれば、早期に検討いただくことがよいのではないかと考えます。 もちろんシステム化するかどうか、システム化するとしてどこまでどのようにするかは事業者の経営判断に委ねられる事項ですが、人手不足の進行やIT環境の変化、制度面の後押しなどを踏まえると、導入のメリットは年々大きくなっていると言えるでしょう。 ──最後に事業者へのメッセージをお願いします。 菅沼 「今が検討の好機」です。補助金制度や税制優遇など支援体制も整っており、デジタル化に取り組む環境としては非常に良いタイミングです。初期導入には一定の手間とコストがかかりますが、一度整備すれば効率化効果が継続的に得られます。 ぜひ支援機関や専門家に相談しながら、自社に合ったデジタル化の形を検討していただきたいと思います。 (インタビュー・構成/本誌・髙根文隆) 掲載:『戦略経営者』2026年7月号 記事提供 戦略経営者  『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。
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