中小企業の株主総会で押さえておきたい注意点は?
中小企業の株主総会は、株主が経営者や親族に限られ、毎年ほぼ同じ流れで進めている会社も少なくありません。ただ、役員改選や配当、定款変更などを適切に決議し、後で確認できる形で残すことは大切です。この記事では会社法の流れに沿って、招集・決議・株主名簿・議事録の注意点を整理します。 💡この記事のポイント  ☑株主総会の手続きは、会社の規模ではなく、取締役会設置会社か、公開会社かといった形態によって変わる  ☑中小企業では、適切に決議を行う前提として、株主名簿や相続、株式移動の整理ができているかが重要になる  ☑当日の採決だけで終わらせず、議事録や関係書類を残しておくことが、後の説明や手続きに役立つ 目次 閉じる開く 1.まず確認したい 自社の株主総会のルール (1) 取締役会設置会社かどうかを確認する (2) 公開会社か非公開会社かで招集通知の扱いが変わる (3) 定款で招集通知の期間などをどう定めているか確認する 2.よくある議題と決議の基本 (1) 普通決議と特別決議の違い (2) 中小企業でよく出る議題 (3) 議題ごとに必要な決議を先に確認する (4) 議決権数も確認しておく 3.見落としやすい 株主名簿・相続・株式移動の整理 (1) 株主名簿が古いと招集の前提が崩れる (2) 相続や株式移動があると総会は複雑になる (3) 株式の移動は承認手続きまで確認する (4) 省略やみなし決議は、株主の整理ができてから考える 4.少数株主や不在株主がいる会社ほど、手続きを丁寧に (1) 少数株主から招集を求められることがある (2) 議題は会社側だけで曖昧に決めない (3) 出席しない株主がいるなら、委任状や書面を残す 5.株主総会当日の説明と採決の進め方 (1) 最初に確認したい、出席状況と議決権の全体像 (2) 議題ごとに説明、質疑、採決を分ける (3) 質問には必要な範囲で説明する (4) 採決結果は後で確認できる形にする 6.総会後の議事録作成と保存の基本 (1) 議事録は後で会社を守る書類になる (2) 議事録には最低限残したいことがある (3) 延期や続行をするときも、その場で整理する 7.中小企業の株主総会についてのまとめ 1.まず確認したい 自社の株主総会のルール  中小企業の株主総会では、まず自社のルールを確認することが大切です。株主総会の手続きは会社の規模そのものではなく、会社の形態や定款の定めによって変わります。特に、最初に確認したいのは次の3点です。  ・取締役会設置会社かどうか  ・公開会社か、非公開会社か  ・定款で招集通知の期間などをどう定めているか  これらを確認しておくと、自社の株主総会をどのように進めるべきかが見えやすくなります。 (1) 取締役会設置会社かどうかを確認する  まず確認したいのは、自社が取締役会設置会社かどうかです。取締役会を置いている会社では、株主総会の日時、場所、議題、書面投票や電磁的方法による議決権行使の有無などは、原則として取締役会の決議で定めなければなりません。  中小企業では、代表者が実質的に総会の内容を決めていることも少なくありません。しかし、取締役会設置会社であれば、本来は取締役会で決めるべき事項があります。自社が取締役会設置会社かどうか最初に確認しておきましょう。 (2) 公開会社か非公開会社かで招集通知の扱いが変わる  株主総会の招集通知は、原則として総会の日の2週間前までに発する必要があります。ただし、公開会社でない株式会社、つまり中小企業で多い非公開会社では、書面または電磁的方法による議決権行使を定めていない場合には、原則1週間前までに短縮されています。さらに、取締役会設置会社でない会社では、定款でそれより短い期間を定められる場合もあります。 (3) 定款で招集通知の期間などをどう定めているか確認する  最後に、定款の確認も欠かせません。取締役会設置会社でない会社では、定款で招集通知の期間をさらに短く定められる場合があります。反対に、実務では慣例で進めていても、定款上は別の扱いになっていることもあります。  毎年同じように総会を開いていても、定款を見直すと想定と違っていることがあります。株主総会の進め方を考えるうえでは、会社法だけでなく、定款の内容も合わせて確認することが大切です。 2.よくある議題と決議の基本  会社の型を確認したら、次に見るべきなのは、どの議題を、どの決議で決めるのかです。中小企業では、役員改選や役員報酬、配当などを毎年の流れで処理していることもありますが、議題によって必要な決議が異なる点は押さえておきたいところです。 (1) 普通決議と特別決議の違い  株主総会の決議でまず意識したいのは、普通決議と特別決議の違いです。会社法上、普通決議は原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で行います。これに対し、特別決議は、一定の重要事項について、出席要件を満たしたうえで出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。  中小企業では、毎年の総会を同じ調子で進めているうちに、「今回は普通決議で足りるのか」「特別決議が必要なのか」をあまり意識しないまま終えてしまうことがあります。まずは議題ごとに必要な決議を確認する姿勢が大切です。 決議の種類 主な議題(例) 必要な賛成数(原則) 普通決議 役員の選任・改選、役員報酬、配当 原則として出席株主の議決権の過半数 特別決議 定款変更、事業譲渡、解散 原則として出席株主の議決権の3分の2以上 (2) 中小企業でよく出る議題  中小企業の株主総会でよく出る議題は、ある程度共通しています。代表的なのは、次の4つです。 ① 役員の選任や改選  取締役や監査役は、株主総会の決議によって選任します。 ② 役員報酬  取締役の報酬等は、定款に定めがない場合、株主総会の決議によって定めるのが原則です。 ③ 剰余金の配当  剰余金の配当も、中小企業でよく問題になりやすい議題です。原則としては株主総会の決議で定めますが、定款や機関設計によっては取締役会で決定できる場合もあります。したがって、自社ではどの機関が決めるのかを、定款まで含めて確認しておくことが大切です。 ④ 定款変更  事業目的の追加や役員任期の見直しなど、会社の運営を変える場面では定款変更が必要になります。  これらは、後に登記や金融機関対応、事業承継の説明につながることもあるため、総会での位置付けを曖昧にしないことが大切です。 (3) 議題ごとに必要な決議を先に確認する  総会では、「議案を並べて、とりあえず承認を取る」のではなく、まず議題ごとに必要な決議を確認し、そのうえで総会を組み立てる方が安全です。  たとえば、役員改選と定款変更を同じ総会で扱う場合でも、必要となる決議の重さは同じではありません。ここを区別せずに進めると、後で議事録を見返したときに、どの議題をどの決議で処理したのかが分かりにくくなります。  中小企業では、その場の流れで物事が決まりやすいからこそ、総会前に「この議題は普通決議か、特別決議か」を整理しておく意味があります。 (4) 議決権数も確認しておく  決議を考えるうえでは、総会当日の前に議決権の数え方を確認しておくことも基本です。議決権は原則として1株につき1個で、自己株式には議決権がありません。  中小企業では株主数が少ないため、この確認を省略しがちです。重要な議題がある総会では、議決権数を事前に確認しておくと安全です。 3.見落としやすい 株主名簿・相続・株式移動の整理  中小企業の株主総会では、決議要件そのものより前に、株主の整理ができていないことが問題になるケースが少なくありません。相続や親族間の株式移動がある会社では、総会の前提そのものが揺らぎやすくなります。 (1) 株主名簿が古いと招集の前提が崩れる  会社法上、会社は株主名簿を備え、株主に対する通知や催告は、株主名簿に記載・記録された住所等に発すれば足りるとされています。  そのため、株主名簿が古いままだと、会社としては通知を出したつもりでも、実際の株主との間にズレが生じやすくなります。中小企業では、株式の移動があっても株主名簿の更新が追いつかず、昔のままになっていることがあります。株主総会の手続きを考える前に、まず株主名簿が今の実態と合っているかを見直すことが重要です。 (2) 相続や株式移動があると総会は複雑になる  中小企業で特に注意したいのが、相続による株式の分散です。共有株式については、権利を行使する者を一人定めて会社に通知しなければ権利行使できず、通知の受領についても整理が必要になります。つまり、相続が入ると、従来どおりの感覚で「いつもの人にだけ連絡すればよい」とは言えなくなります。  また、親族間や旧役員との株式移動があった場合でも、会社側の整理が追いついていないと、誰が株主なのかが曖昧になります。相続や株式移動があった会社では、総会の準備より先に株主が誰かを確認する意識が必要です。 (3) 株式の移動は承認手続きまで確認する  中小企業では、譲渡制限株式を採用している会社が多くあります。この場合、株式を譲り渡す際には会社の承認手続きが問題になり、承認手続きが曖昧だと、株主や議決権の帰属も曖昧になりやすくなります。  「身内の話だから」「実質的には変わっていないから」と簡単に済ませてしまうと、株主が誰なのか、誰に議決権があるのかが曖昧になります。株式の移動は、資金のやりとりや税務だけでなく、会社法上の手続きまで含めて整理する必要があります。 (4) 省略やみなし決議は、株主の整理ができてから考える  中小企業では、株主全員の同意による招集手続きの省略や、株主全員の同意によるみなし決議が使われることがあります。ただし、書面または電磁的方法による議決権行使を定めた場合には招集手続きの省略はできず、みなし決議の同意書面等は本店で10年間保存する必要があります。  したがって、株主名簿が古い、相続で株式が共有になっている、株式移動の承認手続きが曖昧といった状態では、便利な制度ほど危険になります。省略できるかを先に考えるのではなく、「省略しても大丈夫な状態か」を先に確認することが重要です。 4.少数株主や不在株主がいる会社ほど、手続きを丁寧に  株主が経営者や親族だけで固まっている間は、株主総会も比較的スムーズに進みます。ですが、元役員や親族外の出資者、相続人など、少数株主がいる会社では、株主総会の進め方が一気に重要になります。 (1) 少数株主から招集を求められることがある  会社法は、一定の要件を満たす少数株主に、株主総会の招集を請求する権利を認めています。原則として、総株主の議決権の3%以上を6か月以上継続して持つ株主が対象ですが、公開会社でない株式会社では、この6か月要件は外れます。  中小企業では頻繁に起こるわけではありませんが、相続や親族間の対立、退任した役員との関係悪化などをきっかけに現実の問題になることがあります。そのため、少数株主がいる会社では、「請求が来たらどうするか」を後回しにせず、定款、株主名簿、議決権の状況を整理しておくことが大切です。 (2) 議題は会社側だけで曖昧に決めない  少数株主がいる会社では、「何を総会で決めるのか」が外から見て分かる形になっていることが重要です。中小企業では、よく分かっているメンバーだけを前提に議題を組み立てがちですが、それでは少数株主との間で認識のずれが生じやすくなります。  そのため、招集通知に記載する議題は、できるだけ具体的にしておく方が安全です。取締役会設置会社では、招集の際に株主総会の目的事項を定める必要があるため、「その総会で何を決めるのか」が明確になっていること自体に意味があります。後の不信感や紛争を防ぐためにも、招集通知と議事録で議題の表現をそろえておくと安心です。 (3) 出席しない株主がいるなら、委任状や書面を残す  中小企業の株主総会では、全株主が当日出席するとは限りません。遠方に住んでいる株主や、親族間で代表者だけが出席するケースもあります。  このような場合は、電話や口頭で「賛成しておいて」と済ませるのではなく、委任状や議決権行使書面など、後から確認できる形で残しておくことが大切です。代理人による議決権行使には代理権を証明する書面が必要で、書面による議決権行使がある場合には、その議決権行使書面も保存の対象になります。  少数株主がいる会社や、今後株主間の関係が変わる可能性がある会社では、当日の出席だけでなく、不在株主の議決権をどう扱ったかを残しておくことが重要です。 5.株主総会当日の説明と採決の進め方 (1) 最初に確認したい、出席状況と議決権の全体像  株主総会の当日は、事前に整理した議決権の全体像を前提に、実際に誰が出席しているのかを確認することが重要です。中小企業では、顔ぶれが毎年ほぼ同じこともあり、この確認を省略しがちですが、当日の出席状況は必ず整理しておきましょう。 (2) 議題ごとに説明、質疑、採決を分ける  総会の進行では、議題ごとに流れを区切ることが大切です。説明の途中でそのまま賛否確認に入るのではなく、説明、質疑、採決を分けて進めた方が、総会の流れが明確になります。 (3) 質問には必要な範囲で説明する  株主から議題に関する質問があった場合には、議題に関係する基本的な説明はできるようにしておいた方がよいでしょう。中小企業では質問が出ないまま終わることも多いですが、相続人や少数株主がいる場合には、役員報酬、配当、定款変更の理由などについて確認が入ることもあります。質問に対して感情的な対応をしてしまうと、株主総会そのものより会社側の姿勢が問題視されることがあります。 (4) 採決結果は後で確認できる形にする  採決は拍手や挙手で済ませることもできますが、どの議題が可決されたのか、どう確認したのかを議事録に記録しておくことが重要です。 6.総会後の議事録作成と保存の基本 (1) 議事録は後で会社を守る書類になる  会社法は、株主総会の議事について議事録を作成し、本店に10年間備え置くことを定めています。中小企業では、「全員納得していたから簡単なメモでよい」と考えがちですが、議事録はその場の確認用ではなく、後で会社の意思決定を説明するための書類です。役員変更、定款変更、配当などは、金融機関への説明、登記、事業承継、相続の場面で過去の決議内容を確認されることがあります。そのときに、議事録が残っていなければ、当時の手続きを説明しにくくなります。 (2) 議事録には最低限残したいことがある  議事録は長く書けばよいわけではありませんが、少なくとも開催日時と場所、出席状況、議題、採決の経過、可決されたかどうかは残しておきたいところです。「第1号議案承認」だけでは、後から見て流れが分かりません。重要なのは、後から第三者が見ても、その総会で何がどう決まったかを追えることです。 (3) 延期や続行をするときも、その場で整理する  総会の途中で結論が出ず、後日に持ち越したい場面でも、株主総会で延期または続行について決議があれば、改めて招集決定や通知をやり直さずに進められる場合があります。  中小企業では、「今日はここまでにして、また後日集まろう」と口頭で終えてしまうことがありますが、それでは単なる別の総会のようにも見えてしまいます。後日に持ち越すのであれば、そのこと自体を総会の中で整理し、議事録にも残しておく方が安全です。 7.中小企業の株主総会についてのまとめ  中小企業の株主総会では、難しい運営テクニックよりも、株主名簿の整備、議題の明確化、議事録等の記録保存といった基本を確実に押さえることが大切です。とくに相続や株式の移動、少数株主の存在がある会社では、前提となる情報が曖昧なまま総会を進めると、後から思わぬトラブルにつながることがあります。円滑な運営のためには、日頃から総会の前提事項を整理し、後で確認できる状態にしておくことが重要です。 参考資料 ・「会社法」 ・中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」 ・J-Net21「株主総会の招集手続きについて教えてください。」 ・J-Net21「どのような場合に、株主総会で計算書類などの承認が必要となりますか?」 ・J-Net21「株主が1人の株主総会について教えてください。」 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。
2026.05.18