2025年04月01日

業績をアップする「変動損益計算書」の活用法①――変動損益計算書の構造と考え方

業績をアップする「変動損益計算書」の活用法①――変動損益計算書の構造と考え方

💡この記事のポイント
 ☑変動損益計算書は「税務署があるから作成しなければならない帳簿」ではなく、「経営に必要な帳簿」。
 ☑変動損益計算書は、内部計算として「直接原価計算方式」を採用し、総費用を変動費と固定費に分類する。
 ☑固定費と変動費を分けて計算することで、売上の変動が利益に与える影響を明確に把握できる。  ☑変動損益計算書の活用により、利益の増大、生産効率・販売効率の向上、機会損失の防止が可能となる。
 ☑業績管理のための有効な道具として、予算管理や原価管理、損益分岐点分析など多岐にわたる活用がされている。

1.はじめに

 企業経営の究極の目的とは何でしょうか。経営コンサルタントの窪田千貫先生(注)は「利潤と賃金の追求」にあると説かれています。
 市場原理に基づく経済社会は、個々の企業が国内同業他社は言うに及ばず、国際的な企業間競争の下で、利益の増大という目的に向かって拡大発展するところに、その特徴があるといえます。
 つまり、企業は獲得した利益によって自己資本を充実させ、拡大再生産を繰り返すことによって、さらなる成長・発展を期しているわけです。そして、このようにして獲得した利益の大小は、企業経営のよし悪しを見る一つの目安とすることができます。
 とはいえ、あまりにも利益獲得至上主義に走りすぎると、ビジネスの根幹である信用そのものを損なうことにもなりかねません。企業の不祥事がニュースをにぎわすことがそれをよく物語っています。
 おそらく、社会と共生していくといういわば“企業市民”的な感覚を持ちながら、この「利潤と賃金」を追求していくことが企業に求められるのではないでしょうか。
 利潤と賃金を増大させるためには、その原資となる「限界利益」を全社一丸となって増大させなければなりません。具体的にはまず調達した資金によって設備・資材を購入するとともに社員を雇用し、その労働力によって研究開発・製造・販売・サービスを営む。その結果として限界利益が得られ、これを株主、企業そして社員(役員と従業員)に分配するということです。むろん、こうした仕組み・原理の必要性は企業規模の大小や業種のいかんを問わず当てはまることです。
 本記事で紹介する「変動損益計算書」は、企業の収益性を分析するための重要なツールです。費用を固定費と変動費に分けて計算することで、売上の変動が利益に与える影響を明確に把握できます。特に、経営戦略の立案やコスト管理において、その有用性は計り知れません。変動損益計算書の基本的な構造とその活用方法について詳しく解説します。

(注)窪田千貫(くぼたちつら)先生
 昭和26年法政大学卒業後、青山学院大学大学院で管理会計を専攻。(株)西陣などを経て、昭和34年マネジメント実務センターを創設。以来、経営コンサルタントとして活躍。
 日経ビジネス・スクール講師等を務めるとともに、主な著書に『限界利益のつかみ方』『機会損失のつかみ方・防止のし方』(以上、同友館)『企業の全部門にわたる経営管理公式集』(同文館)『利益感度分析のすすめ方』(中央経済社)ほか多数がある。

2.「変動損益計算書」の考え方

 一般的な損益計算書は、外部報告としての財務会計の考え方(全部原価計算方式)に基づいています。変動損益計算書は、それとは異なり、あくまでも「儲けるための定石」の道具である内部計算として「直接原価計算方式」を採用し、総費用を変動費と固定費の二つだけに分類して計算します。その主な利用目的には次の三つがあります。
 ➀利益の増大を実現する  ➁生産効率・販売効率を高める  ➂儲け損ない(機会損失)を防ぐための情報を提供する  要するに、変動損益計算書というのは「税務署があるから作成しなければならない帳簿」ではなく、経営活動の結果(業績)を重点的かつ迅速に捉え、次の活動の方針決定に役立てていくための「経営に必要な帳簿」です。それは次の計算手順によって示されます。

変動損益計算書

 売上高 ………売った金
-) 変動費 ………買った金
  限界利益 ………儲かった金
-) 固定費 ………使った金
(直接原価計算方式による)
 経常利益 ………残った金

 このように変動損益計算書は企業経営における業績管理のための、いわば道具であり、収益の増大目的という内部計算から見れば全部原価計算(財務会計)よりも優れています。これを使って算出された利益の方が正しい期間利益を表しているといえます。ただし、ここでいう経常利益は一般的にいわれている全部原価計算方式のものとは異なるため、ここではあえて「直接原価計算方式による経常利益」と表現しました。

 では、実際に企業の現場ではどのような形で、この変動損益計算書が業績管理のために活用されているのか。これを整理すると次の10項目が挙げられます。
 ➀予算管理
 ➁原価管理
 ➂損益分岐点分析
 ➃製品別・商品別・事業分野別の組み合わせによる利益構造の分析
 ➄価格決定・価格戦略
 ➅操業度政策
 ➆中長期経営計画、短期経営計画の策定
 ➇棚卸資産の評価
 ➈製品に関する意思決定
 ➉業績貢献度の評価

3.直接原価計算方式

 直接原価計算方式とは、企業で発生する製造原価を製品原価(プロダクト・コスト)にすべて割り振って計算するのではなく、そのうちの固定費は期間原価(ピリオド・コスト)として、その発生した期間に一括して費用計上させる計算方式のことです。
 次の図表はこの直接原価計算方式と全部原価計算方式との違いを示したものです。これを見ても分かるように、全部原価計算方式では製造原価中の固定費を製品原価に含めるのに対し、直接原価計算方式では製品原価には含めない点が大きく異なります。
 つまり、直接原価計算方式を採用して製品や仕掛品の棚卸資産を評価する場合は変動費だけの評価になるため、全部原価計算方式による場合よりも評価額が小さくなるのです。このことによって、いわゆる「勘定合って銭足らず」というようなことがなくなり、不良在庫の増加による黒字倒産を早期に発見することができます。
 さらに固定費の配賦に潜む恣意性を排除することができるために、機会損失を発見することにも役立ちます。こうした特徴を備えているがゆえに、業績管理のための有効な道具となり得ているわけです。

●全部原価計算と直接原価計算

項目全部原価計算
(トータル・コスティング)
直接原価計算
(ダイレクト・コスティング)
計算方法①製造原価の中に固定費を含める
②各製品に固定費を割り当てて製品ごとに損益計算する
①製造原価の中の固定費を期間原価として除外する
②トータルの固定費をトータルの限界利益と突き合わせて採算をつかむ
期間損益在庫が増えると利益が多くなる
(黒字倒産を発見しにくい)
会社全体の採算状態を間違えずに正しくつかめる
(黒字倒産が発見できる)
製品戦略疑似出血状態の製品の場合に見られるように全体の採算に対する製品の貢献を錯覚しやすい全体の固定費回収に対する各製品の貢献度を正しくつかめる
(疑似出血が確認できる)
その他財務会計、税務会計で定められた制度的な手順である
(外部報告には不可欠)
業績管理のための内部計算として有効な手順である
(管理会計)

4.変動費と固定費

 変動損益計算書では総費用を大別して2種類に分けています。具体的には、通常、財務諸表として作成される「損益計算書」の勘定科目である、製造原価、販売費及び一般管理費、営業外費用を操業度との関係から変動費と固定費とに分類するということです。
 変動費とは、売上高や生産高といった操業度の増減に比例して増減する費用を意味し、これに対し固定費とは操業度の増減にかかわらずその総額が変動しない費用のことです。
 確かに費用の中には例えば事務員給料や監督者賃金のように一定部分が固定的でありながら、生産高の増加に伴って増加していく準固定費と呼ばれる費用があります。また、固定料金と測定料金の混合した料金制による電気・ガス・水道料のような準変動費といわれる費用もあります。
 しかしながら、企業の業績管理のためには、これらの中間的な費用をすべて固定費として捉えたほうがよいのです。なぜなら各部門の責任者が管理可能費として予算管理していくことができるからです。
 これを重箱の隅をつつくように厳密に分類したところで、業績管理目的からいえば大して意味はありません。管理が複雑になるということは、目的を達成できないばかりか、機会損失(儲け損ない)を招くことにもなるでしょう。

5.固定費の二つの性質

 ところで、固定費には二つの性質があります。一つはマクロ的な性質です。これは前述した操業度の増減にかかわらずその総額が変動しない費用であるということです。
 もう一つはミクロ的な性質であり、時間の経過とともに費やされるものだということです。例えば、今年の新入社員の初任給が20万円(総支給額)だったとしましょう。この会社が週休2日制で、1カ月の労働日が20日、1日の所定労働時間が8時間だったとすると、この新入社員の1分間当たりの賃金は次のようにして計算できます。

200,000円 20日×8時間×60分 =20.83円/分

 すなわちこの新入社員が研修を受けているときも、段取りのための準備作業をしているときも、工程通り主体作業をしているときもすべて1分間経過するごとに20円83銭の固定費が消費されていることになります。この合計として給与規定などに基づき、便宜上月末にまとめて賃金20万円が支払われているに過ぎないのです。
 なお、変動損益計算書では固定費の中に営業外収益も含めています。本来なら費用ではないわけですから外すべきかもしれませんが、業績管理上は営業外費用の控除項目として表現しておくほうが便利なのです。すなわち受取利息などの営業外収益は営業外費用から差し引かれることによって、固定費がその分だけ相殺されることになります。

6.限界利益と限界利益率

 限界利益とは企業維持費をまかなった上で、利潤と賃金へ配分するための原資であり、それはまた変動損益計算書の計算手順からいえば売上高から変動費を引いた金額のことです。
 言い換えれば、固定費と経常利益を合計した金額にほかなりません。ちなみに限界利益という言葉は「販売数量が一つ増えたときに増加する利益」の意味で、英語では「マージナル・インカム(marginal income)」と呼びます。
 この限界利益を売上高で割った割合のことを「限界利益率」といいます。つまり、売上高に占める限界利益の割合です。

限界利益 =売上高-変動費
     =固定費+経常利益
限界利益率= 限界利益 売上高 ×100

 しかし、限界利益または限界利益率と一口に言っても、これを月間の商品別に捉える方法もあれば、企業全体の限界利益を捉える方法もあります。当然、個々の商品や製品の限界利益を合計したものが、企業全体の限界利益ということになります。

 では、このような限界利益率と固定費比率との二つの経営指標を組み合わせることで、いったいどんな販売方針が導き出されるか――この応用問題を示したのが次の図です。

●商品コスト・ブロック分析表

ブロック限界利益率固定費比率商品分類方針
高い低いもうけ商品重点販売
高い高い人海商品固定費削減
低い低い低粗利商品変動費削減
低い高い薄利商品商品改良

◆ケース・スタディ(変動損益計算書の活用事例)
-限界利益(粗利益)を最大化させるための経営努力を引き出すF社一
 ここでは、「変動損益計算書」が企業経営に対してどのように役立つのかを具体的に理解してもらうために、企業での活用事例を紹介します。

●企業プロフィール
 所 在 地……広島県
 年  商……4億5千万円
 従業員数……80人(アルバイト・パート含む)
 事業内容……すし店経営

 広島県ですし店を経営しているF社は、四つの店舗をそれぞれ部門として捉えて、部門別の業績管理を行っています。部門別に作成された「変動損益計算書」を利用して各店舗の店長が、自店舗の限界利益(粗利益)を最大化し、最終的な利益である経常利益を増加させるための管理を行っています。

(1) 限界利益率(粗利益率)を向上させるために

 同社の社長と店長で開催する店長会議では、「変動損益計算書」を使って店舗の売上や経費などを、前月比、前年比、予算比で詳細に検討していきます。売上は落ちていないか、無駄な経費は使われていないかなどをチェックするわけです。
 特に売上の順調な伸びとともに限界利益率(粗利益率)が向上しているかという点を重要な管理のポイントとしています。たとえ売上が前月比、前年比で伸びていたとしても、限界利益率が悪化していれば確保できる経常利益は増加しないことになるからです。
 そのため、同社では1%の限界利益率の変化がどのくらい経常利益に影響を及ぼすのかについて全社員に徹底し、限界利益率の向上に努めています。
 例えば、すし店の料理200種類以上のメニューがありますが、全てのメニューが同一の限界利益率というわけではありません。仮にそうめんは限界利益率が高く、巻きずしは低いとすると、そうめんを多く売った店舗と巻きずしを多く売った店舗では前者の方が店舗全体の限界利益率は高くなります。そのため同社では、売上高を前月比、前年比で比較するとともに、限界利益率について比較することを重視しています。
 「変動損益計算書」を参照して、店舗の限界利益率に変化があれば、すぐにメニュー別の売上構成比を確認するなどその原因を追究します。

(2) 原価を抑える工夫

 売上高を伸ばして、かつ限界利益率の高いメニューを中心に据えることで限界利益を大きくすることができます。しかし、もう一つ重要な要素があります。それは原価を抑えることです。F社の場合、メニューごとに原価表があり、各料理はいくら以内で作らなければいけないということが決まっています。これは不用意に原価が上昇することを防止するための管理基準です。
 この原価表の通りに料理を作ると目標の限界利益率を維持でき、売上に対して期待したとおりの限界利益(粗利益)を確保できることになります。
 また、それ以下の原価で作れば変動費比率を低下させ、つまり限界利益率を向上させ、期待額以上の限界利益を確保できます。例えば、同社の社長は「曲がったキュウリと真っ直ぐなキュウリがあって、曲がったキュウリが半額なら、曲がったキュウリを仕入れて真っ直ぐなキュウリと同じ料理を作る。そうすればそこに付加価値が出る」と述べています。
 このような料理を作る側の努力も「変動損益計算書」上で前月比、前年比の変動費比率の変化を見ることで確認することができ、原価低減の努力の促進に役立っています。

7.まとめ

 「変動損益計算書」は、企業の業績管理において重要な役割を果たし、限界利益や限界利益率の向上に寄与します。企業経営における業績管理のための有効な道具として、業種業態を問わず、すべての企業トップおよび後継者に不可欠のものでしょう。
 「税務署があるから作成しなければならない帳簿」は税務・申告の専門家である会計事務所に任せるとしても、「経営に必要な帳簿」すなわち「変動損益計算書」は、企業トップ自身が、経理担当者に任せることなく、ご自分でその内容を読みとり、貴社の今後の経営に活用できる資料であるといえます。
 TKC会員事務所では、戦略財務情報システム「FXクラウドシリーズ」を活用して、経営者の意思決定に役立つ変動損益計算書の作成を支援しています。ぜひ相談してみてください。

 

参考文献

 

 窪田千貫、飯塚真玄監修、小出芳久著『経営参謀の心得』TKC出版

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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