💡この記事のポイント
☑税法上の「役員」と会社法上の「役員」よりも広範囲!
☑中小企業は「定期同額給与」「事前確定届出給与」が損金算入できる!
☑業績悪化に伴う役員給与の減額の際は注意!
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- 1.役員の範囲
- (1) 会社法上の「役員」とは
- (2) 法人税法上の「役員」とは
- 2.損金算入が認められる役員給与
- (1) 役員給与はどうやって決めるの?
- (2) 役員給与は原則「損金不算入」?
- (3) 定期同額給与
- (4) 事前確定届出給与
- (5) 業績連動給与
- (6) 「過大な役員給与」は損金にならない
- 3.役員給与が損金不算入となった事例
1.役員の範囲

(1) 会社法上の「役員」とは
会社法では、株式会社の役員を次のように定めています(法定の役員)。
・取締役…会社の業務執行に関する意思決定や会社の経営戦略や事業計画の策定、予算の承認、株主総会での事業内容の説明や次年度の方針発表等を行う役割があります。
・会計参与…会社の計算関係書類の作成とその正確性の確保を担う役割があります。また、取締役等と協力して貸借対照表や損益計算書などの計算関係書類を作成し、会計参与報告書を作成します。決算承認取締役会や株主総会に出席し、必要に応じて株主や債権者からの開示請求対応に対応します。
・監査役…会社の取締役の業務執行状況を監督・監査する役割があります。「業務監査」としては、取締役の職務遂行が法律や社内規則に適合しているかを確認します。「会計監査」では、財務諸表や取引の合法性、透明性を検証します。また、取締役の不正行為や法令違反を発見し、是正を促します。
なお、「執行役員」という言葉がありますが、これは会社法等で定義されている役職ではなく、企業が任意で設置するものです。その役割は、取締役が決定した経営方針に基づいて業務を執行することです。また、法的には執行役員はあくまでも従業員としての立場であり、その報酬は給料として支払われます。
選任についても、取締役・会計参与・監査役については株主総会で選任される一方、執行役員は取締役会の決議で選任されます。
(2) 法人税法上の「役員」とは
法人税法上の役員としては、会社法上の役員である取締役、会計参与、監査役等が該当しますが、それだけでなく、さらに広い範囲が定義されています。これを法人税法固有の役員(みなし役員)といいます。具体的には、下記のような者が法人税法の役員に該当します。
①法定の役員
取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人
②みなし役員(すべての法人に適用)
使用人以外の者(相談役、顧問等)で、実質的に法人の経営に従事していると認められる者
③ みなし役員(同族会社のみに適用)
同族会社の使用人で、その同族会社の中心的な株主グループの一員である等の要件を満たし、実質的に法人の経営に従事している者
つまり、実質的に会社の経営に関与している場合は、税法上の役員として扱われることとなります。例えば、代表取締役社長が退任し相談役等の立場になったとしても、後を継いだ社長が相談役の承認がないと決裁できない等、実質的に決定権を有している(=法人の経営に従事している)場合には、役員として扱われる可能性があります。その結果、役員給与に関わる税務の取り扱い等に影響を及ぼすこととなるので注意が必要です。
2.損金算入が認められる役員給与
(1) 役員給与はどうやって決めるの?
役員給与は株主総会において決定します。株主総会では役員給与の総額の決議でよく、各役員の給与については取締役会や取締役間の協議等で決議することができます。ただし、その際は必ず株主総会や取締役会の議事録や支給決定通知書等の書類を作成しましょう。
特に議事録については、税務上の証拠資料としてだけでなく、事業年度ごとに役員が役員給与について意思決定をしたという重要な記録になります。特に中小企業の場合、経営者が自分の役員給与を自由に決められると考えてしまいがちです。しかし法人組織である以上、会社は社長個人の所有物ではありません。
例えば、前年実績や当期の業績見込み、1年以内に返済する借入元本額を含めたキャッシュ・フロー等さまざまな要素を検討した上で、顧問税理士とも相談しながら役員給与を検討することが重要です。
(2) 役員給与は原則「損金不算入」?

従業員に対する給与・賞与等は、税務上損金への算入が認められています。一方、役員に対する給与・賞与等(役員給与)は、原則として損金不算入とされています。その理由は、経営者が自らの給与を自由に設定する――例えば、利益(益金)が出た場合に役員報酬を上げることで法人税を軽減する――といった行為を防ぐためです。
また、役員給与の支給基準を明確にすることで、会社の財務状況の透明性を高め、株主や投資家に対する信頼を確保するといった意味もあります。
逆にいえば、こうした利益調整に使われることがなければ、損金に算入できるということです。具体的には、次の3つの役員給与は損金として認められています。
① 定期同額給与:毎月同額で支給される給与。
② 事前確定届出給与:所定の時期に確定額を支給する給与。
③ 業績連動給与:利益や株価指標を基に算定される給与。
(3) 定期同額給与
定期同額給与とは、役員に対して支給される給与のうち、一定の期間ごとに同額が支給される給与のことです。具体的には、次の2つの要件を満たすものをいいます(税務署への届出は不要)。
・【定期要件】1か月以内の一定期間ごとに支給するものであること
・【同額要件】各支給時期における支給額が事業年度を通じて原則同額であること
定期同額給与の金額は、決算終了後の定時株主総会等、毎年所定の時期に行われる改定(通常改定)が認められています。その際は、次の要件を満たしている必要があります。
① 期首から原則3か月以内(3月決算法人であれば6月末まで)に行う改定であること。
② 事業年度内において、改定前の毎月の支給額が同額であること。
③ 事業年度内において、改定後の毎月の支給額が同額であること。
例えば、支給額は事業年度を通じて同額だが支給時期が四半期ごとである場合(定期要件を満たさない)や、毎月一定日に支給しているが事業年度の途中に増額や減額をした場合(同額要件を満たさない)には、原則としてその役員給与の一部の損金算入は認められません。
ただし、次のような場合には「同額要件」を満たしていなくても定期同額給与として扱われます。
・期首から3か月以内に増額改定された定期給与
要件1…改定が期首から3か月以内であること(3月決算法人なら6月末までに改定)
要件2…改定前の各支給時期(その事業年度内に限る)における支給額が同額であり、かつ、改定以後の各支給時期(その事業年度内に限る)における支給額が同額であること
・下記①から③のような、経営状況の著しい悪化等の理由により期中に減額改定された定期給与(業績悪化改定事由)
① 財務諸表の数値が相当程度悪化した場合。
② 倒産の危機に瀕している場合。
③ 経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与を減額しなければならなくなった場合。
「業績悪化」といっても、単に「資金繰りが厳しい」というだけでは損金算入が認められません。経営状況が著しく悪化したことを理由に、役員給与の減額改定が認められるのは、例えば次のようなケースです。
・事例1…銀行との間で借入金の返済期限延長等の条件変更をするため、役員給与を減額しなければならなくなった。
→銀行との交渉に作成した返済計画、資金繰り表や、条件変更契約書等、減額の理由を明らかにすることで、役員給与の減額が認められる場合があります。
・事例2…財務状況、資金繰りが悪化し、取引先との信用を維持・確保するため、経営改善計画に役員給与の減額を盛り込むことになった。
→役員給与の減額により、財務状況、資金繰りに反映される効果を明らかにしたうえで、中長期的な経営改善計画になっていれば、減額が認められる場合があります。
なお、こうした減額改定を行う際には、業績悪化を説明できるような客観的かつ具体的な資料、例えば取締役会の議事録等が必要です。また、減額を行う前に必ず顧問税理士に相談しましょう。
(4) 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、税務署に事前に定めた額と所定の時期を届け出ることで、損金算入が認められる給与のことです。事前確定届出給与とするためには、次の要件を満たす必要があります。
① 確定支給額を株主総会で決議して議事録を作成し、1か月以内に一定事項を記載した届出書を税務署へ提出すること。
② 届出書に明記された支給日と支給額の通りに役員への報酬が支払われていること。
上記の条件を満たしていない場合、つまり税務署への届出を失念していたり、届け出た支給日・支給金額の通りに支給していない場合には、その全額について損金算入が認められません。
例えば、事前確定届出給与を採用している7月決算法人の会社が、当期に大幅な増収増益が見込めそうなことが判明し、従業員だけでなく役員への夏の賞与(7月支給)を増額した場合です。事前確定届出給与で当期の支給額を決定しているため、もし実際に増額をしてしまうと、届出金額とは異なるため、すでに支給した冬の賞与を含めて、その全額が損金不算入となってしまいます。
なお、事前届出の期限は、次のいずれか早い日までとされています。
・事前確定届出給与を定めた株主総会等の決議をした日または職務を開始する日から1か月以内
・会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4か月以内
※新規設立した会社の場合は、設立日から2ヶ月以内に提出する
事前確定届出給与の届出書には、納税地や法人名のほか、次の事項を記載する必要があります。
① 事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等
② 事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日
③ 臨時改定事由の概要及びその臨時改定事由が生じた日
④ 事前確定届出給与等の状況
⑤ 事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由及び事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由
⑥ その他参考となるべき事項 ほか
届出書のひな形は、下記国税庁Webサイトからダウンロードすることができます。
【国税庁Webサイト】事前確定届出給与に関する届出書
(5) 業績連動給与
業績連動給与とは、会社またはその会社と支配関係にある会社の業績に、役員の給与額を連動させる制度のことです。算定基礎となる業績は、利益の状況や株式の市場価格の状況を示す客観的な指標によって評価され、一定の要件を満たせば全額を損金算入できます。
業績を上げれば上げるほど役員給与が増えるため、経営者へのインセンティブとなり、成果主義の企業にぴったりな制度です。
ただし、業績連動給与の対象企業は、以下の条件を満たす内国法人とされています。
・内国法人…日本国内に本社を持つ法人。
・同族会社…非同族会社による完全支配関係がある法人に限る。
中小企業の場合、そのほとんどが同族会社であると考えられるため、実質的に業績連動給与は利用できないケースが多いと考えられます。
※同族会社…会社の株主の3人以下、並びにこれらと特殊な関係にある個人や法人が、議決権の50%超を保有している会社。同族会社は、経営者個人や特定の株主によって支配されやすいため、税制上の特別な措置が設けられている。
(6) 「過大な役員給与」は損金にならない
定期同額給与あるいは事前確定届出給与に該当する要件を満たしていたとしても、各事業年度において役員に支給した給与のうち、不相当に高額の部分の金額については、損金に算入することができません。
過大な役員報酬であるかどうかは、以下の基準に基づいて判断されます。
① 実質基準…役員の職務内容、会社の業績、従業員の給与状況、同規模・同業他社の役員報酬の状況を総合的に勘案して判断します。例えば、役員の職務が他の役員と比べて軽いにもかかわらず、報酬が著しく高い場合等です。
② 倍半基準…売上高や利益額等の指標を用いて、事業規模が類似する他社と比較します。具体的には、売上高や利益額が自社の0.5倍から2倍の範囲内にある他社と比較して、報酬が過大でないかを判断します。
③ 形式基準…定款や株主総会の決議内容に基づいて役員報酬額を判断します。例えば、株主総会で決定された報酬額を超えて支給された場合、その超過分が過大とみなされます。
これらの基準を満たさない場合、過大な役員報酬と認定され、税務上の不利益を受ける可能性があります。また、使用人兼務役員についても、使用人として支給する賞与で、他の使用人とは異なる時期に支給した場合は過大な役員報酬となり、損金の額に算入されません。
過大であるかどうかの判定は難しい場合が多いので、必ず顧問税理士に相談しましょう。
3.役員給与が損金不算入となった事例

■A社の事例
定期同額給与を採用していた中小企業のA社では、令和〇年3月期に業績が悪化し資金繰りが苦しくなったため、期中に役員給与を減額することで資金ショートを防いだ。社長は以前、顧問税理士から「業績悪化による減額なら損金算入が認められる」と聞いたことを覚えていたため、当然損金算入が認められると考え税理士に相談をしなかった。そして令和〇年3月期が終わると、申告書を作成し提出した。しかし後日税務調査があり、役員給与の一部が損金不算入と認定され、法人税等の納付が発生した。
■解説
業績の悪化による減額改定については、国税庁Webサイト「定期同額給与 経営の状況の著しい悪化に類する理由」で次のように解説されています。
【9-2-13 令第69条第1項第1号ハ《定期同額給与の範囲等》に規定する「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する。】
この事例では、業績が悪化したのは確かであったものの、例えば取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において役員給与を減額せざるを得ないことを示す書類、あるいは取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保するため、役員給与の減額を盛り込まれた経営改善計画といった資料がありませんでした。そのため役員給与の減額が法人の一時的な資金繰りの都合であり、業績悪化事由には該当しないと判断されました。その結果、減額改定後の給与の額が定期同額給与の額とされ、それを越える部分の金額(通常改定が認められる期首から3か月分を除く)を損金不算入として修正申告することとなりました。
【参考資料】
・『Q&A 役員給与の税務』(TKC出版)
・『事務所通信』2025年4月号 他

記事提供
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