💡この記事のポイント
☑限界利益率が高くても有利製品であるとはかぎらない
☑時間(=ミクロの固定費)を上手く管理することで機会損失を防げる
☑生産性の高低によって有利・不利製品の立場が180度変わってしまうケースがある
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1.1分間当たり損益の重要性
本記事では『有利製品を見抜く4原則』の一つである時間当たり限界利益にスポットを当て、論じてみましょう。
特に製造業の場合において、儲け損ない・機会損失を探し出す有力な手段が、この時間当たり限界利益といえます。
図表1.乙社の主要製品別収益分析表の事例
(単位:円)
製 品 名 | 販売数 ① (個) | 販売金額 ② | 変動費 ③ | 限界利益 ④ | 限界 利益率 ⑤ (%) | 工数 ⑥ (分) | 分当たり 限界利益 ⑦ | 分当たり 固定費 ⑧ | 分当たり 利益 ⑨ ⑦-⑧ |
A | 10,670 | 2,541,608 | 490,820 | 2,050,788 | 80.7% | 28,809 | 71 | 166 | △95 |
B | 339 | 6,767,250 | 2,265,876 | 4,501,374 | 66.5% | 9,594 | 469 | 166 | 303 |
C | 2,502 | 3,918,240 | 1,195,956 | 2,722,284 | 69.5% | 750 | 3,629 | 166 | 3,463 |
D | 18,860 | 8,130,244 | 6,187,620 | 1,942,624 | 23.9% | 32,034 | 60 | 166 | △106 |
E | 1,018 | 2,686,780 | 1,141,178 | 1,545,602 | 57.5% | 9,162 | 168 | 166 | 2 |
F | 462 | 5,036,877 | 893,970 | 4,142,907 | 82.3% | 5,174 | 800 | 166 | 634 |
G | 240 | 2,811,860 | 265,920 | 2,545,940 | 90.5% | 30,720 | 82 | 166 | △84 |
H | 581 | 1,230,596 | 284,690 | 945,906 | 76.9% | 5,229 | 180 | 166 | 14 |
I | 24,170 | 16,407,225 | 7,686,060 | 8,721,165 | 53.2% | 12,085 | 721 | 166 | 555 |
J | 10,870 | 8,186,850 | 3,032,730 | 5,145,120 | 63.0% | 1,087 | 4,741 | 166 | 4,575 |
K | 51,200 | 6,624,560 | 3,584,000 | 3,040,560 | 45.9% | 5,120 | 593 | 166 | 427 |
図表1はある機械メーカー乙社の主要製品別収益分析を示した表です。まず、注目してほしいのがA製品です。この製品の限界利益(販売金額から変動費を差し引いた額)を見ると205万788円で、その限界利益率は80.7%に達しています。これはいわゆる水商売並みの非常に高い水準といっていいでしょう。
しかし、これほど限界利益率が高くても有利製品であるとはかぎりません。すなわち、営業部門がA製品を1万670個売って254万1,608円の販売金額を得たわけですが、その1万670個を工場で生産するのにどれほどの時間を要したかが問題となります。
それを調べる方法に工数(作業時間)管理があります。この場合、A製品に2万8,809分の時間を要したということですから、この時間でA製品の限界利益を割ると1分間当たりの限界利益71円が出ます。これに対し、1分間当たり固定費はどの製品も166円ということですから、差し引けば95円のマイナスということになります。
つまり、限界利益率ベースだとA製品は水商売並みに儲かっているのに、工数を加味した1分間当たり損益での、実態は赤字だったということなのです。
このようにしてA~Kまでの11品目すべてを調べた結果が、一番右端に記載されている「分当たり利益」です。Bは303円の利益があり、Cは3,463円、Jは何と4,575円の利益を稼いでいます。これに対して、Eはわずか2円しか利益が出ていませんので、こういうのを“慈善事業製品”と呼びます。それでも利益が出ていればよいほうで、Aと同様にGは84円、Dにいたっては106円もの赤字になっています。これが機会損失にほかなりません。
要するに、時間(=ミクロの固定費)の管理をいい加減にやってしまうと、おのずと結果もいい加減なものになって機会損失を招くことになるわけです。そしてこの時間の測定にあたっては標準(理論値)作業時間ではなく、自社の過去の平均値を採用するのが一番実態に即した、実務的に正しいやり方といえます。
また、1分間の固定費の出し方は、工場もしくは生産ラインごとに捉えるのが望ましいのです。ラインによっては汎用機械でやっている場合もあれば、NC工作機械・MC(マニシングセンター)・産業用ロボットなどを取り入れている場合もあるからです。当然、後者のほうがイニシャルコストが高いですから、1分間当たりの固定費も高くつきます。
このように現状を分析して、どの製品にもっと重点を置くべきかなどを探し出すことが結局、戦略立案に結びついていくことになります。
ともあれ、限界利益率が高い製品は有利なのですが、時間という尺度で捉え直してみると今回のケースのように赤字に転落している場合もあるのです。それゆえ、この原理を応用して事業部門ごとの収益性分析をしてみると、それまで見えなかった問題が浮き彫りにされてくることがあり得ます。
2.有利製品の立場が逆転する場合
図表2.製品工数(時間)当たり限界利益分析の事例
(単位:千円)
製 品 名 | 売上高 ① | 変動費 ② | 限界利益 ③ (①-②) | 限界利益率 ④ (③÷①) | 固定費 ⑤ | 経常利益 ⑥ (③-⑤) | 工数 (時間) ⑦ | 工数当たり 限界利益 ⑧ (③÷⑦) | 順位 |
A | 10,000 | 6,000 | 4,000 | 40.0% | 5,000H | 0.8 | 1 | ||
B | 10,000 | 5,000 | 5,000 | 50.0% | 10,000H | 0.5 | 2 | ||
計 | 20,000 | 11,000 | 9,000 | 44.5% | 9,000 | 0 | 15,000H | 0.6 |
図表2も、前掲の図表1と似たような表ですが、ここでは仮にAとBの2種類の製品しか取り扱っていない場合、果たしてどちらを優先すべきかを取り上げてみます。
A、Bともに売上高は1,000万円で、変動費はAが600万円、Bが500万円ですから、限界利益・限界利益率に関しては明らかにBのほうが有利です。
ところが、問題は図表1のケースと同様に工数がどうかということです。これを見ますと、Aは5,000時間であるのに対し、Bはその倍の1万時間もかかっています。その結果、工数当たりの限界利益はAが0.8、Bは0.5となり、有利製品の立場が逆転します。
たとえ限界利益が少なくても、そして限界利益率が低くても、時間がさほどかからなければ──言い換えれば生産性の高低によって──有利・不利製品の立場が180度変わってしまうということです。
もちろん、この場合はAを優先し、Bは二次的となります。非常に単純な事例ですが、それでも考え方それ自体はすべて同じといってよいですから、この仕組みをよく理解して実際に自社のケースに当てはめて現状分析してみることが経営改善に向けての第一歩になります。
参考文献
窪田千貫、飯塚真玄監修、小出芳久著『経営参謀の心得』TKC出版

記事提供
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